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ダムインタビュー(13)
江守敦史さんに聞く
「ダムについて何時間も語れる萩原さん。彼と本質を突き詰めたからこそ、面白い本になりました」

江守敦史(えもり あつひさ)さんは、日本初のダム写真集『ダム』の編集者です。ダムを見るのが好き、写真を撮るのが面白いというダム好きさんの存在を世の中に広めたきっかけともなった、萩原さんのダム写真集。その企画・編集を担当された方です。

今回は、これまでにご登場いただいたダム好きさん達とは、少し立ち位置の違う方にお話を伺うことになりました。人物や風景以外でも、鉄道や航空機などの写真集は数あれど、なぜダムの写真集だったのか。正直なところ、ダムの写真集を出せば売れると思ったのだろうか…などなど、興味津々のところをお聞きしました。

(インタビュー・編集・文:中野、写真:廣池)


写真集『ダム』は、先駆けといえる本

中野: まずは、お仕事の内容を具体的にお伺いします。江守さんが所属する「ナレッジエンタ編集事業部」とは、どういう本を扱っておられるのでしょうか? また、趣味の世界の写真集というのは、ダムの他にどういうものがあるのでしょうか?

江守: 当社メディアファクトリーは、一般書籍、文芸、雑誌『ダ・ヴィンチ』、コミック、DVD、音楽CD、玩具などなど、様々なものを発信している出版社です。そのなかで、私が所属しているナレッジエンタ編集事業部は、主に企画単行本を編集しています。中心となる出版物としては「ナレッジエンタ読本」というシリーズを刊行していますね。ナレッジエンタというのは、ナレッジ<教養>とエンタテインメント<娯楽>を組み合わせた造語ですが、その二つが結びつくことで、面白くわかりやすく、教養も娯楽もさらに魅力を増すと考えています。そういったことから、趣味の世界に通じた読み物や写真集もたくさん出しています。写真集『ダム』は、その先駆けともいえる本ですね。

中野: なるほど。それでは、ダムを見るのが好き、ダムの写真を撮るのが好きというダムマニア、つまりダム好きさんの存在は、いつ頃から意識されていましたか? それと、彼らに目をつけたのは、編集者としてでしょうか? それとも個人的に興味を持っていたからですか?

江守: まず、自分たちの本作りの方針というのが、有名無名を問わず、各分野の第一人者であったり独自の価値観を持った人を見つけて、その人の価値観で「本」を出そう、というものなんです。だから、独自の考え方や視点を持った人を見つけて、その人の視点を軸に、「興味を持って手に取ってくれた人が面白がれる本」を作っていくことが多い。
そのために僕たち編集者は、雑誌やTV、ネットなどの情報をチェックしたりと、自分の中にいろいろなアンテナを立てているわけです。ダムについては、確か2006年の夏ごろ、ネットを見ているときに「ダム祭」というイベントがあることを知って……。「ダム祭」って何だ!?という興味からスタートしました。
自分にとっては、もともとダムは遠い存在ではなかったので、とにかくそのイベントを1回見に行ってみようと思いまして。高円寺で行われた「ダム祭」というトークライブに足を運んでみたんです。そうしたら2時間も3時間も「ダム」について延々と語り続ける人が、目の前にいた。これはどういう人なんだ。こんな人って日本にいるんだ!と驚いたんです。ダムをあくまで建造物として鑑賞して、その魅力を自分自身の言葉で語れるというところに惹かれて、イベントが終わった後、すぐに萩原さんに「本を作りませんか」というお話しをしました。

ダムとの出会いは山歩きから

中野: 今、ダムは遠い存在ではなかったといわれましたが、それは小さい頃にダムを見に行かれたことがあるとか、そういうことでしょうか?

江守: はい。僕は兵庫県西宮市で生まれ育ったんですが、小学校の頃、ボーイスカウトに入っていたんです。だから、近くにある六甲山をはじめ、各地の山に登りに行く機会が多かった。正しくは「ダム」でない場合でもあったと思うんですが、貯水池や湖のほとりに集まってレクリエーションを行ったり、山を歩いている最中に堰や砂防ダムを目の当たりにしていて。意識するまでもなく、本当に自然に触れていた。なかでも六甲山系はよく神戸から宝塚まで歩いていたので、千苅をはじめとした、いくつかのダムを見ていましたね。
それと、萩原さんも言われていましたが、車に乗るようになってからは、ダムはドライブの目的地でした。僕は車好きでもあるので、一庫(ひとくら)ダムとか、あのあたりを夜に車で走っていました。ダムは駐車場が整備されているし、自動販売機やトイレもあったりするので、ドライブにはもってこいだと思います。そういうふうに、ダムはずっと自分の近くにあったんです。だから萩原さんの「ダムが面白い」という感覚も、僕はすんなりと受け入れられました。

中野: 萩原さんのウェブサイト、「ダムサイト」はどうやって発見したのですか?

江守: おそらく、「ダム祭」のイベント情報からリンクされていたと思います。それをたどったんじゃないでしょうか。

中野: 他にもいろんなサイトがあったと思んですが、そのなかで萩原さんのサイトを選ばれたわけは?

江守: 「ダム祭」に行く前に、いろんなダムマニアさんのサイトを、ひと通り見たんですよ。もちろん、出演者だからというのもありましたけど、それを差し引いても、萩原さんのサイトがいちばん気になった。ダムに関する情報の整理の仕方や、撮影されている写真の視点を見ているうちに、きっとこの人は、ダムに対してものすごくこだわりがあるんだな、ということが伝わってきたんです。

こだわって、面白がって作る

中野: そこから、最初の写真集「ダム」が出たのが、2007年2月ですね。この写真集を作るにあたって、写真は全部撮りなおしたと聞いていますが、制作にはどれくらいかかったんでしょうか。

江守: 制作期間はだいたい半年くらいだったと思います。写真については、webサイトと写真集では必要なクオリティが違いますし、僕はもっともっと萩原さんの主観で撮ってほしかったので、そういったところを打ち合わせながら。結果的には、大部分を撮り直していただきました。

中野: 制作中も含めて廻ったダムのなかで、江守さんがいちばん印象に残っているダムはどこですか? また、ご自身が好きなダムはありますか?



江守: 僕はダムを含む建造物の面白さのひとつは、「多様性にある」と思っています。だから一つひとつのダムに、違う良さがあるんですね。だいたい、行くとどこでも面白いんですよ(笑)。関東近郊でいうと、現地に行ってみて印象に残ったのは滝沢ダム。僕は高いところが苦手なんですけど、滝沢ダム正面にあるループ橋はトラックが走ると揺れるんです。それがたまらなく怖かったですね(笑)。まだ新しいので堤体が白いところも、エッジの効いたところも好きですし。他には、実はまだ行ったことがなくて申し訳ないんですが、川俣ダムが好きです。タイトでキュッとそっているところが、自分好みで美しいと思います。
中野: 写真集には、ダムの用語事典も載っていました。編集されているあいだに、ダムについて詳しくなったりされましたか?

江守: それは詳しくなりますよ! 萩原さんはダムの話をするとき、普通の人にわかるように心がけていると思うんですけど、とにかく詳しいので、ときどきわからない言葉を使われたりもする(笑)。そういうときに、僕は「ダムの素人」なので僕にでもわかるように説明してください、という基準で原稿を直してもらったりして。そういったことを丁寧に、一緒に行っていったことが、結果的によかったと思います。
用語事典は、萩原さんのサイトにベースになるものがありましたし、本全体のイメージを、ビジュアル重視の図鑑のようにしたいなと思っていました。最初にダムの見方や形式の解説を入れたり、「ダム」について、大真面目に伝えることで、逆に面白いものになるんじゃないかと思ったんですね。

中野: 写真集作りの実作業は、スムーズに進みましたか? 苦労したことはありますか?

江守: それはもう、これまでにない本ですから試行錯誤の連続でした。でも苦労というより、その過程が楽しかったですね。難しかったのは、ダムの大きさを紙面からいかに伝えるかということでした。会社のなかでも、ダムの写真集を出すということになったときに、「ダムって面白いけど好きな人いるの?」とか、「ホントに買ってくれる人はいるの?」という話になったんです。そのときにも、どうやればダムの大きさを伝えられるんだろうと考えて。だから、あえて堤体の上から見下ろすようなカットを入れてみたりとか、見比べられるように人を入れてみたりするなど、工夫をしています。

あとは、これは一緒に作ってくれているデザイナーさんのお力ではあるんですが、テンポ良く写真を見られるようにであるとか、バラエティ豊かにいろいろなタイプのダムが楽しめるような順番にしたり。あくまで写真集ですが、写真の上にデータや文章も掲載したり。ただ、カタログみたいにしてしまうと面白くないなと思ったので、そこには気をつけて構成しましたね。

僕は本作りは、著者の方や編集である自分やデザイナーさんなど、制作にかかわるみんなで真剣に面白がることが大事だと思っています。だから『ダム』を作る時も、デサイナーさんも一緒にダムに連れていって「下から見上げるとこんなに大きいんだ」とか、「アーチの良さがわかりました!(笑)」とか、一緒に共感しながら、盛り上がって作っていきましたね。

中野: あの内容で、あの価格の写真集を出版できるのは不思議な気がしますが、何かコストを抑える秘訣のようなものはあるのですか?

江守: うーん。実は最初は、4,500円とか5,000円とかする、豪華版の写真集を計画していたんですよ。少数でもいいので、わかる人にだけ買ってもらえればいいかとも思っていました。でも「ダム祭」を見にいったときに、実は若い女の子だったり、建築やデザイン・アートなものに感度が高い人たちが面白がっていることを知って。そういう人たちが、萩原さんの発言に、いい反応をしていたんです。それを見た時に、これは一般にも通用するんじゃないかと確信しましたね。だから、高くて分厚いものからサイズを落として。でも写真集として、ダムの大きさもきちんと伝えたかった。それをいかにして、手に取りやすい価格の本にできるか。その仕様に、いちばん試行錯誤しました。だから、安いと感じていただけているのは、本当に嬉しいことです。詳細は、企業秘密ですが(笑)。


中野: 萩原さんも写真集が出た時にとても喜んでおられて、「一生懸命作ったんですよ」と言われてましたが、発売後の手応えはどうでしたか? アンケートで購入者の反響、感想はありましたか?

江守: 読者はがきは、他の本よりもたくさん戻ってきています。「実家の近くにありました」とか、「そういえば行ってました」とか、ダムの思い出を書いてくれている人が多いですね。普段何げなく見逃している人が多いダムについて、「あそこのダムに行ってたな」とか「ダムって面白いんだ」とか、気づいてもらえたのが嬉しいですね。

普通はダムの姿を知らない

中野: ダムって大きいので、見ると感動を与えるものだし、外観だけではわからない所が写真に撮られると、よりわかりやすくなるということもありますね。

江守: そうですね。萩原さんのイベントでやっていたことなんですけど、いろんな人に「ダムの絵を描いてください」とお願いすると、人によって様々なかたちのものを描くんですよ。黒部を思い出してか「アーチ」を書く人、「重力式」を書く人、その形式やクオリティもまちまちで。そこからもわかるように、普通は、本物の「ダム」の姿を知らないんですね。まあ、僕もそうだったんですけど(笑)。

中野: その企画は、「ダムナイト」というイベントで拝見しました。確かに、一般の人にとっては「ダム」の形がよくわからないようですね。

江守: そうですね。堤体の端が山肌とつながっていなくて、そもそも貯水池になってないとか、ほんと、いろいろでしたから(笑)。でもイベントでは、ダム好きな人というのが実感できて楽しかったですよ。たとえば自分と同じ30代半ばくらいの、こういうものをストレートに楽しめるお客さんがいて、あとは20代くらいの情報感度の高い、好奇心旺盛な女性が多かった。読者はがきだと、さらに60代くらいの人も多いんですけどね。実は「ダムをやって(作って)ました」という人も多いんです。ダムは大きいものだから、何らかのかたちでかかわっていた人の数も多いんですね。写真集『ダム』が多くの人に受け入れられた背景には、そういったこともあるんです。


トークライブの狙い

中野: 「ダム祭」というトークライブは、何回かあったようですね。江守さんは2006年の夏(2006.8.1 高円寺円盤 2006.8.15 新宿ロフトプラスワン)には観客として参加され、その後2007年(2007.2.16 新宿ロフトプラスワン 2007.2.21高円寺円盤)には出演者として参加されたようですが、それはどういうことだったんですか?

江守: 流れのなかで、気がついたら壇上にいたというか(笑)。最初のイベントの時には、DVD『ザ・ダム』のプロデューサーであるアルバトロスの石川さんや、ゲストの方がいたんですよ。その後、2007年になって、ふたたび「ダム祭」を行うことになって。そのときは写真集『ダム』の発売タイミングでもあるし、本の内容を伝えたくて。PRのためにも僕が壇上にあがったというわけです。

写真集を作っていくなかで、萩原さんとはイベントの構成どうしましょうか?とか盛り上がっていたので、「じゃあ江守さん出てください」という感じでしたね。僕も関西人なので、話すのは嫌いじゃないですし(笑)。以前にこのインタビューに出られた、金山さんともそこでお会いしました。

中野: トークライブではたくさんのダム好きさんの声が聞けたと思いますが、その中でもっとも強く感じたことは何ですか?

江守: やはり自分で足を運んで、生のダムを見ている人たちなので、言葉にすごくリアリティがあるということですね。苦労して情報を得てそれを持ち寄って、競うというよりはうまく共有している姿がいいなと思います。和気あいあいとしたコミュニティですよね。趣味の世界も凝り固まってくると、そうはいかなくなりますから。そういう意味では、ダムはまだ過渡期なんだと思います。趣味の世界として細分化されていくのも、育っていくのも、これからなんじゃないでしょうか。だからまだ面白がり方も固定化していなくて、柔軟で良いと思います。ダムってダム好きのことをなんと呼ぶかもまだ決まってなくて、その過渡期の面白さっていうのが圧倒的にあると思うんです。


次があるとすれば・・・

中野: 萩原さんのダム写真集は、これまで2冊出しておられますが、萩原さんから次のお話があれば、また企画されますか?

江守: このあたりは、オフレコです(笑)。ただ、どれだけ読者に求められるか、どれだけ多様な新しい物が見せられるかが大切ですよね。第一弾では主に東日本のダム、第二弾は西日本のダムでしたので、次を作るためには、何かを新しい切り口を用意したいと思います。「世界のダムはどうでしょうか?」という意見もよく聞くんですが、そのためには、もっともっと多くの人に写真集を手に入れていただかないと (笑)。とにかく、僕自身ダムには思い入れがありますし、萩原さんと一緒に、長いスパンで楽しんでいければと思います。

萩原さんもダムを写真で表現するためのいろんな手法やアイデアが、毎回撮るたびに生まれていっていると思いますし、彼にとってダムは、完全に「ライフワーク」ですから。引き続き、いろんなことをやっていきたいですね。イベントについても、お台場の「カルチャーカルチャー」や池袋にあるジュンク堂書店さんの本店でも行いましたが、また機会があればご一緒させていただきたいですね。本が出てから時間は経ちますが、書店さんも面白がってくれるところが多いので、イベントをやってくださいという声はいまだに来ますので。

中野: メディアファクトリーさんからは、「ダム」以外に、似たような形の写真集を出版されていますよね。

江守: 写真集でいうと、すでに出したのは高速道路の『ジャンクション』とか、『秘境駅』シリーズなどですね。「秘境駅」は、奥深い山の中にある駅で、1日1本しか列車が止まらなかったり、利用者がほとんどいなかったりする駅のこと。こちらも、秘境駅訪問家の牛山隆信さんという方がいて、その方と一緒に本を作っています。
僕から見ると、「ダム」も「秘境駅」も、ずっとそこに存在していたのに、これまで目を向けられていなかったもの。萩原さんとも話していたんですが、ダムと鉄道は、好きな人もやや重なっているところがあって。大井川鐵道やJR只見線のように、そもそもダムを造るために敷かれた鉄道っていうのもありますし、そういうところを突っついてみるのも面白そうですよね。

編集者としても転機になったダム写真集

江守: 実はこの本は、僕が編集者としてやっていくうえで、転機になった本でもあるんです。独自の価値観を持った人と一緒に、対象となるものの、面白さの本質を突き詰めていくことで、本当に面白い、「新しい本」ができるということが見えた。そうやって『ダム』以降、『ジャンクション』だったり、『秘境駅』だったり、いろんな本を作っていくことができました。そのなかで、「日本って面白い」って思えてきたんですね。以前は、世界に目や足が向いていた時期もありましたが、もう一回、日本って面白いじゃないかって気がして。今はそれが、自分自身の本づくりの軸になっています。何かないか、新しいものはないか、と散々探していたら、自分の身近なところに面白いものがあった。「青い鳥」みたいな話です(笑)。

昔、国鉄がやっていた「ディスカバー・ジャパン」というキャンペーンに近い感覚でしょうか。再び日本を見てみよう、発見しようと。今は団塊の世代を中心に、またそういう流れも来ていますよね。かつて、そういった人たちが頑張った分だけ、日本は豊かになっていき、東京タワーが立ち、わが家に冷蔵庫がきて、カラーテレビになった。そういう時代を象徴したものや、そのエネルギーのなごりが、全国各地にあるんです。

戻ってきた読者はがきのなかでも、団塊世代の人たちのメッセージは熱いものが多いですよ(笑)。あの頑張っていた頃の気分と重なっているんじゃないかと思いますね。そういう時代の気分とうまく融合していけると、ダムもさらに盛り上がるんじゃないかと思います。


中野: 読者は、第1弾『ダム』、第2弾『ダム2』と続けて読まれている方が多いんですか?

江守: もちろんそういう人も多いです。あとは、西日本のダムを集めた『ダム2』は、やはり西日本の人が買ってくれました。近所の知っている場所が本になっていると、やっぱり皆さん喜んでくれるんですね。おかげさまで、ダムは他に類書がないですから、第1集を買ってくれた人は第2集も買ってくださることが多くて。第1弾の『ダム』はおかげさまで5刷になりまして、常にじわじわと買っていただいています。人によって、ダムを見るのは新しいと感じる人もいるかもしれないし、現地を知っていたり、ダムの建設に携わったような方にはノスタルジーを感じる人もいるだろうし、写真集としての裾野は広いと思いますよ。

ダムはインフラだということを忘れがち

中野: ダムは、実は私たちの暮らしに大事なものなんだって気づいてもらえるといいですね。

江守: 確かにそうですね。僕たちは形を面白がりすぎるあまり、ダムが生活に欠かせない水資源のインフラだということを忘れがちではあるんですけど(笑)

中野: ダム好きさんのなかでも、写真を撮る時になんでこんなところに邪魔な木があるのか?とかという意見があるのですが。

江守: 僕は素晴らしいと思うのは、萩原さんは入ってはいけない所には絶対入らないし、そういうルールはきちんと守られている方です。なので、現場の方と仲良くなって、特別な場所に入れてもらって撮影をさせていただいたりもしている。僕らも写真集の撮影ともなると、冗談で「あの木、邪魔になるから切りたいよね」なんて発言はしますけれども、実際には切るわけにはいかないですから(笑)。萩原さんは、現場の状況のなかで最善のカットを撮影して、それが納得行かなければまた訪れる、ということを繰り返されています。

中野: ダム工学会の語りべの会に、萩原さんと宮島さんに来て頂きましたが、好きなダム・嫌いなダムのベスト10のなかで、ロックフィルダムの堤体上流面に人工的な線が引いてあるのがダメとお話しされてましたね。景観にはこだわりがあるようでした。

江守: 僕の印象でしかありませんが、「土木」ジャンルには、重厚で質実剛健というか、華美でなくムダのないものが好きな人が多んじゃないでしょうか。サントリー山崎じゃないですけど、「何も足さない、何も引かない」ですよ。装飾はちょっと、という人が多いような気がしますね。でも苫田ダムくらい、デザイナーズな感じだと、それもまたよし、となるのも面白いんですが(笑)

あとは、これは写真集の読者の人にはそこまで伝わりきってないと思いますが、萩原さんやダム好きの皆さんにとっては、「インフラとしての頑張り具合」も大事な要素のひとつみたいなんですね。台風で大雨が降った時に、ネットでダムの流入量なんかを見て、そのダムがいかに頑張っているかを読み取って、ワクワクしていることもある。そこまでいくと、突き抜けた境地なんだなって思います。流入量、放流量などの数値を一晩中見ているだけで楽しめるなんて、うらやましいなって思いますよ。

中野: たしかに、お話をお聞きしてても引き込まれるところがありますね。趣味とはいえ視点というかものの見方が違いますよね。

ダムに行くと大きな声を出したくなる



中野: 江守さんはこの写真集を作って、ダムが好きになったということはありますか?

江守: もともと持っていた気持ちより、さらにダムのことを好きになりました。残念ながら、僕はすべての撮影に同行できるわけではないんですが、自分が行ったことのないダムで気に入った場所を見つけると、行ってみたくなる。そういう場所がどんどん増えますね。たとえば「豊稔池」とか、土木遺産としても、これは死ぬまでにいちどは見ておかないと後悔するだろうなあ、と思います。
そういえば、僕は「ダム」に行くと大きな声を出したくなるんですよ(笑)。プライベートで行ったときにも、奈良俣ダムの堤体の上で叫びましたから。岩の上で、前から風がビュービュー吹いていたんですが、「わーーーーー」とか叫ぶと、気持ちいいなって思って。大きいものって、大きいだけですごいって思いますね。やはり圧倒的ですね。人間は力を合わせて、知恵を結集してこんなすごいものを造れるんだって。そこにポツンと立ってみたときに、なんてちっぽけなんだ俺は、みたいな気持ちにもなりますけど、それがまたいい。行けば単純に驚きがあるという場所もなかなかないですし。そういうことも全部ひっくるめて、ダムというのは他にはないですよね。

中野: ダムはマスコミの取り上げられかたによっても、イメージをつくられてしまいがちなので、写真集が出たことによって、その魅力を伝えられてよかったと思います。写真集は、ご自身でも活用されることがありますか。

江守: ありますね。遊びに行った先で、そういえばこの先にまだ行ってないダムがあるかな、とか。僕は自分が読みたい本を作っているので、自分で編集した本ですけど、読者の方と同じように楽しんでいると思います。行きたい所はいっぱいありますね。黒部ダムとかも小さい時に祖父母と行った思い出だけなので、もう一度行ってみたいです。あと、湯田ダムの貯砂ダムが「裏見の滝」になっているので、あそこもぜひ自分で歩いてみたいですね。

中野: 江守さんのお話を伺っているうちに、ダム写真集の裏側が透けて見えた気がします。あの写真集のおかげでダムのことがより世間に広まりやすくなったのではないかと秘かに考えておりましたが、あの本で伝えたいものを、受け止めてくれる読者の気持ちがあったからこそなんですね。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。


(参考)江守敦史さんプロフィール

江守 敦史(えもり あつひさ)
(株)メディアファクトリー ナレッジエンタ編集事業部 ナレッジエンタ読本副編集長

1972年、兵庫県生まれ。子どもの頃からボーイスカウトで訪れていたダムに親しみを覚える。様々な雑誌編集者を経て、現在は書籍編集者。主な編集物に写真集『ダム』シリーズ、『ジャンクション』、『秘境駅』シリーズ、「ナレッジエンタ読本」などがある。

(平成21年3月作成)
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