Dam master: 写真を撮るのがとにかく好きでしたね。学生時代に山岳部で山巡りをしていた時に八ケ岳の写真が偶然にもきれいに撮れていたんですね。ただ何かが欠けているような気がして、カメラとか構図とかフィルムとかいろいろ調べるようになりました。カメラを常に持ち歩くようになって、いろいろ面白い風景を撮っている中にダムの写真が紛れていたということになりますね。
中野: ダム巡りはいつ頃から始められたんですか。
Dam master: 社会人になって、バイクでツーリングを始めて本格的なダム巡りを始めました。カメラも上級機種になりバイクも原付から大型になってゆきました。自分の生活圏を中心に社会との関わりを考えながら広げてゆきました。ダム巡りとしては2000年頃、地元のかんがい用水を供給する豊川水系の宇連ダムや近くの天竜川の船明ダムなどへ回ったのが最初でしょうか。
宇連ダム(撮影:Dam master)
船明ダム(撮影:Dam master)
ダム協会との出会いは
中野: ダム協会とのメールのやりとりもその頃のようですね。
Dam master: はい、ダム協会様に質問メールを送って船明ダムの堤高などを教えてもらいました。「堤高24.5m」というのを今でも覚えています。その後もダム便覧の「掲示板」とかでいろいろ教えて頂き、ダムの奥深さを知りました。
中野: 阿部さんは、ダムファンからダム協会へきた質問の第1号でした。
猫からダムへ
中野: ホームページを作ったきっかけはなんですか。
Dam master: ウェブサイトについては、猫好きが高じて「ねこのゆいごん」(Cat’s will)を立ち上げたのかきっかけでしょうか。最初に日記とネコのサイトを作ってみたんです。それから写真を撮りはじめ、ダムのサイト「Dam master」を作って、船明ダムなどをアップしました。そのころダム関係のサイトをやっていたのは、「ダムサイト」の萩原さんとか「ダムの風景」のToNoさんぐらいしか知りませんでした。
Dam master: 始めは「Dam Mania」という名前でしたが、どうもしっくりこなくて…。時計が好きでして「OMEGA」のSeamasterを中古で買った時に、ついでにサイト名も「Dam Mania」から「Dam master」にしたんです。それからしばらくして「ダムマニア」としてサイトを立ち上げている人がいらっしゃってびっくりしました。あとからメールをして仲良くなりましたが、それがダムカレーの宮島さんだったんです。
中野: ダム巡りをする時はお一人ですか。
Dam master: だいたい一人でいきますね。時々、誰かと一緒に行くくらいでしょうか。 今回のダム巡りも、一日だけですが新潟県にお住まいのダム好きな方と一緒にダム巡りをする予定になっています。とても楽しみですね。
エンジニアの目
中野: 普段はどのようなお仕事をなさっていますか。
Dam master: 私は、実はエンジニアなんです。仕事としてはオートバイの樹脂部品開発に関係した仕事をさせて頂いています。量産可能でありながら機能を満たして、しかも美しい造形になるようなモノになるよう開発の様々なプロセスで奮闘しております。最近は海外への出張仕事が増えてきました、
中野: 阿部さんにとって、ダムの魅力はなんでしょうか。
Dam master: ダムは機能と造形と自然の組み合わせが面白いと思います。ここが一番の魅力です。機能的には、発電、灌がい、治水などがありますが、人々の暮らしや社会生活の基礎となる大きな役割を果たしています。私が美しいと感じるものには2種類ありまして、1つには機能を追及して出来た形が持つ造形美が良いですね。日本刀に設計図はありませんが、刀鍛冶が「切る」ことを究めた形が日本刀の造形美になっています。それが優れた機能美になります。もう1つは、自然をモチーフにした美しいもの…。たとえば、風にそよぐ女性の髪のなど。見ているものは髪そのものですが、風が髪を捉えて髪がなびくときに風の美しさを感じます。放流する時の水の流れや、コンクリートそのものが持つ重厚さやソリッド感は自然の持つ美しさを体現しているのかもしれないですね。
Dam master: 発電用については送電系統までは無理ですが、発電設備や水路系統ぐらいまではなんとか勉強してます。灌がい用も用水路系統があれば調べてます。ため池にはその地域の長年の渇水の苦労を感じますね。その点、ダムの治水については今一つわかりにくいところがありますね。ダム便覧にも大きな水害のあったときには洪水調節の成果が掲載されるのですが、一般の人はどれだけ理解出来るか…。ここが問題だと思います。
Dam master: 取材ルートは、「ダム便覧」や「DamMaps」を参考にしてスケジュールをつくります。だいたいは一人で出かけますが、行き先のダムに詳しい仲間で都合がつけば一緒に行ったり、私の住む地域を取材したいダムが好きな仲間が訪問することが分かっていれば、私のほうから誘ったりすることもあります。
Dam master: 現地では、まずダムサイトにある解説板や記念碑や水利利用標識などを撮ります。次に諸元については「ダム便覧」を参考にして仕上げます。これは後からでもできますね。そういう意味では、ダム便覧がないとうまくまとまりませんね。このほか、地域の観光名所などは道すがらに調べたり、ネットも使います。
回ったダム550カ所
中野: 今まで、どのくらいのダムを回られましたか。
Dam master: およそ550基ほどで、撮った写真は18,000枚くらいです。写真については、ほとんど「ダム便覧」に提供しています。(笑)「ダムを撮る」という事では、テーマページにも寄稿させていただいてます。ダム写真の撮り方のご参考にどうぞ。
中野: 印象に残っているダムはどこですか?
宮川ダム(撮影:Dam master)
Dam master: 記憶に残るダムはたくさんありますが、最近では三重県の宮川ダム。世界有数の年間降雨量5,000ミリという大台ヶ原から流出する宮川にあります。最近の治水ダムはオーバースペックじゃないかと思う程貯水容量を豊富に持っていますが、このダムは、小振りの姿ながら懸命にがんばっている姿にはとても愛着を感じます。
中野: 今後のダム巡りの予定はどうなりますか?
Dam master: これまでで中部地方はほぼ終わりました。近畿もだいぶ回りましたので、出来た写真を近いうちにお送りしますね。これからは、東北と北海道へも回りたいですね。ダム巡りに行く時は、主に長期休暇などを使っていきますのでまとめての休みはとても貴重です。
Dam master: 私は会場の真名川ダムで展示ブースに詰めていました。現地のダムサイトの天候はなかなか厳しいですね、暑すぎたり大雨が降ったり。今回の出展についてはダムファンの「夜雀」さんが中心になってブースの企画案を実現してくれました。当日も、管理事務所の方々と一緒になってスタッフを努めていました。彼女がとにかく熱心でした。これからも機会があれば、仲間とダムのイベントやトークショーに参加したいし、プレゼンテーションもやってみたいですね。
中野: ダムの将来について、どのように思われていますか。
Dam master: 周辺の住民の人たちには、ダムの働きをもっと知ってほしいと思います。川辺川ダムでは知事さんの反対表明がありましたが、受益者の方々が洪水を甘受されるのかちょっと疑問に思えてきたりもします。堤防が切れるような記録的な水害が起ころうとしている中で、はたして住民全員が一致団結して逃げることができるのか…。
真名川ダムのダムマニアブースに展示されていたパネル(Dam masterさんの写真)
ビジュアルに美しさを伝える
中野: ダムアピールの方法について、何かお考えはありますか?
Dam master: まずは、一般の人たちに「普通に」興味を持ってもらうのが一番だと思います。それには、手ごろな方法として、美しい写真などを見せるとか、もっとビジュアルに美しさを伝えることも大切だと思います。ダム写真を撮っているうちにわかってくるのですが、ダムは正面からも側面からも、いろんな角度から見てみると良いと思います。ダムより高いところから、あるいは、一番下の低いところからも見てみると、いかに雄大かが肌で感じられます。その大きなものが、どういう働きをしているのかと考えると、きっと素直にダムの良さもわかるのではないでしょうか。
小牧ダム(撮影:Dam master)
中野: これからも気をつけて、たくさんダム巡りをして下さい。
Dam master: 実は、去年交通事故に遭いました、もらい事故だったんですが本当に危ないところでしたね。またダムに行く時は車で寝ることも多いのですが、なるべく布団で寝るようにしています、どうも寝袋では疲れがとれませんから。もっとも、寝過ぎて目が覚めたら8時を回っていてがっかりしたこともあります。朝一番のシャッターチャンスを逃がしましたね。そんな時は、次の機会にまた行きます。