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ダムインタビュー(20)
西田博さんに聞く
「一部分の経験しかない人が増えることで、ダム技術の継承が心配される」

西田さん((株)竹中土木営業本部技師長)は、昭和40年に建設省に入省されて以来、通算25年間、ダム工事に関わってこられたというベテランのダム技術者です。昨年度は「ダム建設功績者」として表彰を受けられました。

今回のインタビューでは、ダム造りの専門家である西田さんに、これまでのダム造りの経験や現在ダムが直面している課題などについてお話を伺いました。

ダムの存在意義について一般の人たちの理解をどのようにして得ていけば良いのか、新設のダム現場が減少しつつある状況のもと「若手のダム技術者を育てる」という課題にどう取り組むべきかなど、専門家ならではのお話があるのではないかと、期待を抱きながらインタビューに臨みました。



 
ダムとの関わりは、宮ヶ瀬ダムの調査段階から

中野: まず始めにダムとの関わりについて伺います。西田さんがダムのお仕事をやろうと思われたきっかけは何ですか? 昭和40年から10年間は、旧建設省の建設大学校中央訓練所にお勤めだったとか、これもダム関係のお仕事だったのですか?

西田: ダムとは関係ありませんでした。建設大学校中央訓練所は、戦後復興期の建設技術者不足に対応するために、技術者育成を目的として全国で13の道県に産業開発青年隊という組織が設立されましが、その中央訓練所として昭和38年に富士山麓の朝霧高原に開設され、土木、測量、建設機械の技術を全寮制で学ぶところでしたが、技術より早朝から就寝までの軍隊式精神訓練に特徴がありました。
ダムについては、室原さんの蜂の巣城の反対運動で有名になった松原・下筌ダムや、海外の大型機械を導入して工期短縮を図った佐久間ダムの話を講師の方から聞いたのを覚えている程度です。

中野: 生徒はそこを出ると就職というか、建設現場で仕事ができたということですか?
西田: ええ、卒業後はほとんどが民間企業に就職しおり今でも交流があります。組織は民間の技術の向上もあってニーズがなくなったことから、今からもう15年前になくなりました。

中野: 昭和50年に建設省の宮ヶ瀬ダムに赴任されたのですね? その後、他にもあちこちの現場に行かれているようですが、宮ヶ瀬ダムには節目ごとに何度も赴任されているのですね。

西田: 中央訓練所の勤務も10年になり30歳になっていたと思いますが、現場の仕事をしたいと申し出てたまたま転勤したのが宮ヶ瀬ダムで、それがダムとの関わりのスタートです。

その後、縁があって宮ヶ瀬には都合4回も勤務することになりました。最初は調査関係の仕事で、その後、付替道路の建設、移転代替地の造成、本体建設工事、試験湛水とそれぞれの局面に携わることができ恵まれていたと思います。


工事中の宮ヶ瀬ダム
中野: つまり、西田さんは宮ヶ瀬ダムの最初から最後までご存知だということですか?

西田: 途中抜けている時期もありますが、その間にも局勤務を通じて間接的に携わっていましたので最初から最後まで関わることができ良かったと思います。

中野: その抜けている途中に行かれたのが沖縄の北部ダムですか。その時期に行くという特別な理由があったのですか?

西田: 当時は沖縄が復帰間もない時期で、とにかく水不足が深刻でダム建設が急がれていまして、各整備局から多くのダム技術者が応援にいきましたが、その一員として私も行くことになりました。

工事が始まる前から難しかった

中野: ダムの仕事は、いろいろあると思いますがどういう難しさがありましたか。例えば宮ヶ瀬では?

西田: 宮ヶ瀬に最初に転勤したときは、基礎調査や現道拡幅を行っていましたが現場経験がなく設計積算が分からず大変でしたね。何よりダムは専門用語が多く実際の工事の難しさを知る前に、ダムの専門用語を理解するのにひと苦労した記憶があります。

中野: 最初は工事が難しいのではなく、そこに至るまでの勉強の難しさに直面したということでしょうか?

西田: それと地元対応ですね。私は主に試掘横坑の調査を担当していました。現場に入る前にまず自治体や地元関係者に説明して了解を得るのも大変な仕事でしたが、実際に現地に入ると発破時間が約束と違うとか工事車両のマナーが悪いといった苦情が絶えず、そのつど昼夜を問わず直ぐにお詫びに伺い苦い酒を飲んだ思い出があります。


地元との関係づくりがいちばん重要

中野: 宮ヶ瀬ダムはいまではもう観光名所として知られ、地元でもダムを活用しているのですが、始めはかなり反対とかあったのでしょうか?

西田: ダム下流地区に反対が根強く、土地収用法に基づいて強制調査を実施した時代もありました。逆に上流の水没地域の方は早い段階で建設を了解していただきましたが、それでも地主さんの中には絶対に俺の土地に立ち入っては駄目という人もいまして、道路構造を変更して対応した記憶があります。それでも宮ヶ瀬はどちらかと言えばスムーズに行った方ではないかと思います。

中野: ダム建設ではやはり地元との関係は大事なのでしょうか。

西田: おっしゃる通り地元対応は大事であると同時に大変な仕事です。私も横坑掘削の発破音がとくに夜はうるさいので、家に来て一緒に聞いてみろと言われて、夜、一緒に発破の音を聞いたとか、蚕の餌やりを手伝いながら交渉した事など現場ならではの対応がありましたね。しかしこういった細かい対応が地元との信頼関係に繋がっていくのです。

技術屋としては沖縄のダムで多くを学んだ


工事中の安波ダム

中野: ダム現場で印象に残ったものがあれば、教えていただきたいのですが。

西田: 宮ヶ瀬はもちろんですが、沖縄の安波ダムがとくに印象に残りますね。当時、私自身まだダムの経験が浅く、現場で何か問題が起きても、本土復帰まもない沖縄では相談するダム技術者も少なく、専門書や事例を調べて対応方針を出すというような事の繰り返しでした。その時に学んだ事が私の仕事の原点になっているので印象に残っていますね。
また、当時は、道路がまだ整備されてなく名護市内から1時間半以上かかりましたので、発注を含めて全員現場に泊まり込みで作業していましたが、そうなると工事関係者を目当てに飲食店などの通称ダム村が出来て、そこで飲み食いしたのも印象に残っています。
中野: 安波ダムは、どれくらいの規模だったのでしょうか。

西田: 堤高は86mの中規模の重力式コンクリートダムで、沖縄本島北部に建設されたダムです。
コンクリート打設タワークレーン(13.5t)を最初に使ったダムで、施工性や能力などを検証しながら進めましたが、十分に使えることが立証でき、今でも中規模ダムの打設設備として採用されています。
施工面では、柱状ブロック工法が採用された最後の頃のダムで、現在、主流となっているRCD工法などの面状工法では使用されない、パイプクーリングやジョイントグラウチングなど柱状ブロック工法独自の貴重な現場経験をすることができました。

ダムは総合土木


 

中野: 現場の仕事としては、ダムはお好きですか?

西田: そうですね。ダム仕事は総合土木と言われているように、橋梁やトンネルなどの大型構造物から、代替地の造成などいろんな土木技術を経験することができますし、ダム本体工事となれば大プロジェクト工事で、いろんな工事に挑戦ができるのですごく魅力的なものです。それに後世に残りますからね。

中野: ダムはいろんなものを造るというのがよくわかりますね。

西田: そうですね。ダム本体工事は最後の仕上げで、そこまでくる間の代替地造成や道路建設といった付帯工事が圧倒的に多いですからね。
膨大な設計図書にみる工夫の数々

中野: あの大きな宮ヶ瀬ダムの設計は相当にたいへんでしたか。

西田: 私は工務に関する発注関係や現場の仕事を主に担当していまして、本体設計にはあまり係わっていませんでした。工務課長のとき本体発注を経験しましたが、当時はダム積算に電算システムが導入されてなく、全て手計算でしたので7、8名の積算チームを編成して半年以上にわたって部屋に詰めきりで夜中まで積算に没頭した記憶があります。積算書が完成し当時竹村公太郎さんが所長でしたが、図面だけでも400枚を越す設計図書一枚一枚所長印を押してもらって、設計図書を前にして皆で記念写真を撮り苦労をねぎらってもらった思い出がありますね。

中野: 所長は、たくさんの方が代わられても基本方針は変わらなかったが、細かいところではそれぞれに工夫がありましたか?

西田: そうですね。歴代の所長は、山住有巧さん、中村靖治さん、荒井治さん、竹村公太郎さん、上阪恒雄さんとダム事業に関して豊富な経験と熱意のある個性的な方ばかりでしたからね。

ダムの基本方針はそれほど変わりませんでしたが、対外的な交渉の必要ない原石山、仮設備、工事用道路については所長が変わると、あそこでは駄目だからこちらに変えようとか、通常はいちどき決まった計画はよほどのことがない限り変わらないのですが、それが大きく変わるので担当は大変でした。

それても最終的には立派なダムが出来たから正解だったと思っています。


宮ヶ瀬ダムで土木学会賞

中野: 宮ヶ瀬では職員の方のご苦労はたいへんだったんですね。

西田: それでも宮ヶ瀬を建設する頃は、ダム事務所にもそれなりの権限を持たされていましたし、施工者ともいろいろ協議しながら良い提案は取り入れて、皆で良いダムを造ろうという雰囲気がありましたから、忙しいでしたが苦労とは思いませんでした。
このように発注者、施工者からいろんな新技術提案もあって、お蔭様で宮ヶ瀬ダムは土木学会賞を頂きました。ダム管理所前に記念碑が建立されていますが、その裏にはダム事務所に勤務した職員と施工に携わった施工者全員の名前が刻んであります。記念碑の前に立つと一緒に造ったという思いがありますね。
名前を刻む費用は全員に出してもらいましたが、なかなか施工者全員の名前が刻まれることはないので工事従事者からも感謝されています。

技術屋は現場に出ることが大切

中野: 宮ヶ瀬ダムは周りの工事も例えば橋もきれいに作られていて、良いダムだと思います。今、ダムにとっては逆風ですが、そういう中、ダム技術の継承という面ではどういうふうにしていったら良いのか。何かヒントはありますか?

西田: そうですね。技術の継承というのは非常に難しくて以前から問題になっていますが、関東地方整備局では、河川部会とかダム部会といった部会を作って技術の継承が図られています。私もダム部会に数回招かれて最新のダム技術について説明し意見交換をしましたが、ダムの事務所に勤務しても完成までに非常に長い期間を要するので、ダムの調査だけ、あるいは道路建設だけ、また本体だけに携わる人、それぞれ携わる工事が限られてくるので、このような意見交換の場を通じて技術の継承を図ることもひとつの方法ではないかと思います。一部分の経験しかない人ばかりが増えることになってしまうと、ダム技術の継承が難しくなるのではないかと心配されます。

中野: なるほど、ダム工事は期間が長いので部分部分に携わっていると一部の技術しか知らないままになるから情報交換の場を設けているというわけですか。

西田: 情報交換というか、それぞれ担当工事等についてここはこうだったとか、技術的な課題について説明します。技術的にあれこれ悩んだことも話せますしね。

中野: 先日、若手技術者のためのダム見学会がありましたが、湯西川ダムの建設現場までいらっしゃってご説明されていました。若い技術者の方にはそういう現場見学の機会が少ないように思えるのですが、難しいのでしょうか?

西田: 現場見学会は若手技術者にとっては非常に良い機会だと思いますが、技術は直接現場に携わらないと分からない事がありますからね。できれば4〜5名の単位でJV事務所に短期間でよいので滞在して、直接の担当者と行動をともにして、現場を体験すると現場の厳しさや技術的なことがより分かると思いますよ。
技術屋は現場に出ることが大切です。今は地方整備局でも総合評価の手続きなどの事務的な仕事が忙しくて、どちらかというと現場は民間のコンサルやゼネコンに任せることが多くなって、いちばん大事な現場技術の継承が職員に出来ないジレンマがあるように思います。


中野: 今は、仕事も手続きなど机上のものが多くて、やはり現場の仕事がわからないと手応えがないという声もありますね。

西田: そうですね。行政改革もあって職員が少なくなってきているうえに、発注手続などの事務処理の仕事が多くなって、なかなか現場に行く機会がないようです。若い技術者にはできるだけ現場に出るようにしてもらいたいと思います。

中野: 分業化になっていて、一つのところはよく解るけど専門的になりすぎてダム造りの広範な知識を得る機会も少ないのでしょうか。

西田: そうですね。ダムの発注件数の減少もあってなかなかダム技術を習得する機会が少なくなっていますね。今でも業務委託の成果や発注に伴う総合評価が職員の減少もあって十分できないのが現状ではないでしょうか。このような現状を見るとダム技術の継承が整備局や自治体単位ではもう難しくなってきているように思われます。今は財団への風当たりは強いですが、ダムセンターやここダム協会のような組織で技術を蓄積して継承していかないと、なかなか難しくなってくると思います。

若い人は、現地見学会を通じてダムに触れて欲しい

中野: 現地見学会に行かれた若い方からも、現地に行くとやっぱりダムはすごいなという声が聞かれましたね。

西田: 今回ご一緒した湯西川ダムは、基礎掘削が完了してRCD工法の試験施工中で、基礎岩盤の状況からコンクリート打設状況まで近で直接見ることが出来ましたし、骨材製造設備も含めた全ての仮設備がダムサイト周辺に集中しており、まるで大きな工場みたいですからね。若い技術屋は魅力を感じると思いますよ。

既設ダムの改修でも新たな技術、工夫を考えないと…

中野: 今はダムの新設よりも改修とかリニューアルという方向に行っていると思いますが、そういう面では技術者の視点からどう思われますか。

西田: ダムの改修は、ダムごとに改修目的や特性が異なるので非常に難しいのですが、一部のダムで統合運用とか、ダム嵩上げ、新たに取水設備や放流設備を設けて機能アップを図る工夫が行われていますが、新設ダムが難しくなってくると今後再開発の技術が求められてくると思います。
また、堆砂の進行等に対応するために、土砂バイパストンネルを作るという対応がありますが、そうなるとインバートコンクリートの対摩耗性の課題が出てきますので、それに対応する技術や材料の開発が求められてくるのではないでしょうか。



中野: これから新設のダムは少ないと思いますが、作る場合には環境への配慮も必要だと思います。そういう面では何か技術的に工夫することとかありますか。宮ヶ瀬などではどのような対策があったのでしょうか。

西田: 環境配慮ですか。宮ヶ瀬では歴代の所長が、近郊の相模湖や津久井湖周辺にドライブインなどが乱立し景観を壊している事例を見て、宮ヶ瀬ではそういう事態を防ごうということで、当初から三拠点に絞って整備を進めましたし、神奈川県においても貯水池を含めた周辺を自然公園に指定して、むやみに開発できないように法の網をかけましたので景観が保たれています。
 それに加えて、宮ヶ瀬ダム周辺振興財団を設立して地元と協力して施設の維持管理を行っており、お陰で昨年は190万人と多くの観光客が訪れています。これは環境に配慮して地元生活再建との両立を図ったことに尽きると思います。こういう良いケースはまったくマスコミでは扱われないですよね。(笑)
ダム好きさんの知識欲には、驚かされてばかり

中野: 宮ヶ瀬ダムは、首都圏から近いし観光放流などもあって、ダムのアピールに力を入れているので、ダムマニアの方も好きなダムによくあげられますが、こいうったダム好きさんたちをご存じでしたか?

西田: ダムマニアの事を知ったのは、以前に国土技術政策総合研究所の川崎さん(現・山口大学教授)が、NHKのBS2『熱中夜話』にダムマニアの方と一緒に出られたのを見て知りました。
その後、娘が『ザ・ダム』というビデオを「お父さん、こんなのあった」と買ってきてくれましたのでダムセンターの皆さんと見ました。


それと、ダムカレーもみんなと一緒に食べに行きました。フィルダムとか、重力式ダムとかいろいろあって、私は年齢を考えてアーチ式を食べました。(笑)一般の方があれほど関心を持って、我々よりも全国のダムを数多く歩かれて、しかも、そのダムを造った歴史とか背景に詳しいと思わなかったし心強く思いましたね。

中野: ダムカレーは宮島さんですね。割烹のお店をやっておられるダムマニアの方です。
『熱中夜話』に川崎さんと萩原さんと一緒に番組に出られました。萩原さんは宮ヶ瀬ダムが大好きだそうです。

西田: 一般の方があれだけダムに詳しいことに驚いたし、あそこまで情熱を持って調べているというのにもびっくりしました。それと、技術的にも詳しい。

中野: こちらが知らないような事までご存知ですし。ものすごく情熱的なんですね。だから余計に詳しくなるみたいです。

西田: そうですね。ダムの役割とか自然との関係についてもよく理解をしておられる。

中野: 『ザ・ダム』という放流ビデオは灰エースさんという方の映像がもとだと思いますが、集中的にあちこち見て回ったとか。雨が降るたびにダムに出掛けて行ったそうです。
西田: 台風11号の前日に宮ヶ瀬ダムに行きましたが、大雨に備えて水位を下げており観光放流より多めに放流しており、下流側の副ダム洪水吐きからオーバーフローしていました。通常はなかなか見られない機会に遭遇し写真に撮りましたが、このような情報があれば「ダム好きさん」は飛んでこられるでしょうね。

宮ヶ瀬ダム

宮ヶ瀬副ダム
中野: そういうシーンはダム好きさんたちはホントに大好きで、絶賛すると思いますね。ダムが頑張っている、そういう姿は現場に行かないとわからないので、管理事務所の方もぜひ協力してあげていただきたいです。

西田: そうですね、ああいうファンの方を大事にして情報を提供して、関係を保っていきたいですね。

中野: ダム好きさんも最初からダムに興味があった方は少なくて、たまたま行ってみたら、すごいなと感じてそれで自分で調べて、このダムはどうなんだろうといろいろ勉強して、ダムが人の役に立っているということがわかってくるんですね。

西田: ダム建設に携わったものにとってはありがたいですね。

地道にダムそのものの存在意義を知らせていかないといけない

中野: 今は逆風かも知れませんが、決してダムは悪いものではないし、よく説明すれば理解をしていただけると思いますが、造っている側としてもダムのパンフレットは堅苦しいと思われますか?

西田: ダムの説明はなかなか難しいですね。ダムに反対している人たちは、ダム=税金無駄使いと、いう固定観念がありますからね。
森林を整備すれば水害は防げるといわれますが、このところ地球温暖化の影響によると思われる集中豪雨による災害が頻発しています。今年も台風9号で兵庫県の西北部の佐用町で被害が発生しましたし、福井県で計画されている足羽川ダム流域でも平成16年に災害が起きています。このような現象を捉えてダムの効果と必要性をわかり易く説明していくことが必要ではないでしょうか。

中野: マスコミは、注目を集めれば良いというような側面もあって、何が問題の本質なのかよくわからなくなっているような気がします。やはり日本は水害の起きやすい土地ですのでダムによる治水の必要はあると思いますけど…。

西田: 私も現役時代に何回か報道機関の方に対応して経験していますが、記者の方は固定観念というか思い込みもって取材にみえるので、我々の主張をなかなか理解してもらえなかった経験がありますね。
 話は変わりますが、治水の必要性については、ダムは100年に一回の洪水に備えると言っても、一般の方にはなかなか理解を得られないと思います。説明も観念的になりがちですからね。先ほど言ったように洪水災害を捉えてダムの効果と必要性を根気強く説明しいくしかありませんね。

中野: 治水効果の説明が難しいと言うことですが、利水も同じようなことが言えるのではないでしょうか。一度水道の水がストップするというようなことを体験していないと、説明だけだとなかなか理解しにくいのではとも思いますが。

西田: それは、沖縄に行くと痛切に感じますね。ほぼ全ての家の屋上にタンクが設置されています。昔は渇水が頻繁に発生するのでそれに対応するためでしたが、本土復帰後、ダムを造ってきたお陰で、今や水問題が相当解消されタンクの必要性も薄れてきている。沖縄の人は昔の経験と記憶があるから、ダムのこと、水のありがたみをよく分かっておられると思います。
 このような経験をしないと水のありがたさは理解してもらえないのですかね。

中野: それはどうしてなのでしょうか?

西田: 何かわかりませんが、どうしてもダム建設は無駄な公共事業の典型だというイメージが強いのかもしれませんね。それを払拭するには根気強く、さまざまな事例を積み上げて理解を求めていくしかないと思います。

『脱・脱ダム宣言』へと向かって

中野: 元長野県知事の田中康夫氏の脱ダム宣言で建設中止ということになった浅川ダムが、穴開きダムで進行してますね。

西田: あの時一時中止された浅川ダムは結局、治水専用ダムとして再開されましたが、やはり地元の方は災害が身にしみていますからね。災害があると困るのは地元であり行政です。反対している方たちは災害があっても責任は取れません。やはり行政がきちんと説明して整備を進めていくしかないと思います。

現場の職員もかわいそう

中野: ダムをアピールするのはやはり難しいですね。

西田: ダムの必要性をアピールしてみなさんに理解していただくことは難しいですね。今、報道で取り上げられている八ツ場ダムも、地元は50年前から反対してきてやっとの思いで了解したら、政権が変わって中止といわれても、地元の皆さんの戸惑い困惑は我々には想像もつきませんね。
職員の方も可愛そうです。これまで課題を一つ一つ解決し一生懸命やってきて、せっかく道路建設も進んで、いざ本体発注となった段階で突然中止と言われて途方にくれているのではないでしょうか。以前は地元に入ることも許されずこつこつ交渉を重ねてきた歴代の職員の努力はなんだったんでしょうね。そういう苦労の実態は絶対に報道されないし、またしないのでしょう。

宮ヶ瀬のことを思い出すと先ほど話しましたように、本体発注となると積算チームを編成して小部屋に閉じこもって、鍋まで持ち込み夜中まで積算に没頭していました。八ツ場も同様だったと思いますがやっと積算が終わって万歳したいときに、突然ストップ。本当にやりきれない気持ちです。

ダムをめぐる議論はつきないけれど、より良い方向へ向かっていって欲しい

中野: 21世紀は水の時代とも言われています。世界のあちこちで水不足から多くの問題が発生してくるのではないかと思われますが、これからのダムは社会においてどんな存在であって欲しいですか?

西田: 私はダム造るのが専門でよく分かりませんが、地球温暖化に伴っての異常降雨による洪水と、逆に極端な少雨による渇水になる可能性があるといわれていますが、急峻な日本の地形を考えると必要なものは建設を進めていかないと水害や水不足になってからでは遅いのです。
また、既設ダムの再開発や維持管理によって長期的にその効用が発揮できるようすることも必要です。そうすることによってダムが何時までも洪水や渇水に備えられる施設でつて欲しいです。

宮ヶ瀬ダムのみどころは

中野: 最後に、観光面で人気の宮ヶ瀬ダムについてですが、みどころや見学ルートはどういったところですか。

西田: 宮ヶ瀬ダムは先ほども話しましたように3拠点に絞って整備されています。ダムサイト地区は子供の遊び場や繊維記念館のある愛川公園、巨石を模造した副ダム(石小屋ダム)、ダム記念館等があります。鳥居原地区には湖を展望できる物産館が、宮ヶ瀬湖畔地区は移転代替地を囲むように親水公園、吊り橋、レストランうや土産店があります。それと樹齢百年のもみの木を利用したジャンボクリスマスツリーもここで行われています。
 これらの地区は、観光船で行き来できますし、ダムの堤体はインクライン又はエレベータで上り下りできますので、好きなルートを選んでいただいてダムと周辺の景色を楽しんでいただければと思います。


ジャンボクリスマスツリーと噴水(撮影:NAUTIS)
中野: 観光船は土日だけですか。インクラインとかエレベータもいつでも乗れますか?

西田: 観光船は毎日運航しています。インクラインはコンクリート打設設備のカウンターウエイトの設備を再利用したもので、財団で運行管理をしており有料で300円と記憶しています。エレベータは無料で昼間はいつでも自由に乗れます。

中野: 宮ヶ瀬ダムのおすすめポイントは?

西田: 3地区それぞれ特徴があるので、ハイキングを兼ねて一周約6kmの周遊道路を歩いて3地区を訪ねるのも良いし、観光船に乗って貯水池からダムや周辺の景色を楽しむのも良いと思います。
 また、ダムの観光放流を4月〜11月の間、毎週水曜日、毎月第2日曜日、毎月第2第4金曜日の11時と14時に6分間、ジャンボクリスマスツリーは11月下旬から12月下旬まで行っていますのでぜひ出掛けていただければと思います。

宮ヶ瀬湖(撮影:やん)

インクライン(撮影:さんちゃん)
中野: 宮ヶ瀬ダムに行ってみれば、ダムの良さが分かるということでしょうか。おすすめの観光スポットですので、たくさんの方が訪問してくれるといいですね。
今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

(参考)西田さん プロフィール

西田 博
(株)竹中土木営業本部技師長
昭和18年6月22日生まれ

昭和40 4  建設大学校中央訓練所
50 4  関東地方建設局宮ヶ瀬ダム工事事務所工務課 
53 4  沖縄総合事務局北部ダム事務所安波ダム工事係長
55 4  関東地方建設局宮ヶ瀬ダム工事事務所工事課
60 4         河川部河川工事課
62 6         宮ヶ瀬ダム工事事務所工務課長
平成 2 4  関東地方整備局河川部河川計画課長補佐
5 7         湯西川ダム工事事務所副所長
8 7         企画部技術調査課長
9 4         宮ヶ瀬ダム工事事務所長
11 4         河川部河川情報管理官
12 4  財団法人ダム技術センター
21 5  (株)竹中土木営業本部技師長

[関連ダム]  宮ヶ瀬ダム
(2009年11月作成)
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  [テ] ダムインタビュー(50)山口温朗さんに聞く「徳山ダムの仕事はまさに地図にも、私の記憶にも残る仕事となりました」
  [テ] ダムインタビュー(51)安部塁さんに聞く「新しい情報を得たらレポートにまとめてダム便覧に寄稿しています」
  [テ] ダムインタビュー(52)長瀧重義先生に聞く「土木技術は地球の医学、土木技術者は地球の医者である」
  [テ] ダムインタビュー(53)大田弘さんに聞く「くろよんは、誇りをもって心がひとつになって、試練を克服した」
  [テ] ダムインタビュー(54)大町達夫先生に聞く「ダム技術は、国土強靱化にも大きく寄与できると思います」
  [テ] ダムインタビュー(55)廣瀬利雄さんに聞く「なんとしても突破しようと強く想うことが出発点になる」
  [テ] ダムインタビュー(56)近藤徹さんに聞く「受け入れる人、反対する人、あらゆる人と話し合うことでダム建設は進められる」
  [テ] ダムインタビュー(57)小原好一さんに聞く「ダムから全てを学び、それを経営に活かす」
  [テ] ダムインタビュー(58)坂本忠彦さんに聞く「長いダム生活一番の思い出はプレキャスト型枠を提案して標準工法になったこと」
  [テ] ダムインタビュー(59)青山俊樹さんに聞く「相手を説得するのではなく、相手がどう考えているのかを聞くことに徹すれば、自然に道は開けてくる」
  [テ] ダムインタビュー(60)中川博次先生に聞く「世の中にどれだけ自分が貢献できるかという志が大事」
  [テ] ダムインタビュー(61)田代民治さんに聞く「考える要素がたくさんあるのがダム工事の魅力」
  [テ] ダムインタビュー(62)ダムマンガ作者・井上よしひささんに聞く「ダム巡りのストーリーを現実に即して描いていきたい」
  [テ] ダムインタビュー(63)太田秀樹先生に聞く「実際の現場の山や土がどう動いているのかが知りたい」
  [テ] ダムインタビュー(64)工藤睦信さんに聞く「ダム現場の経験は経営にも随分と役立ったと思います」
  [テ] ダムインタビュー(65)羽賀翔一さんに聞く「『ダムの日』を通じてダムに興味をもってくれる人が増えたら嬉しい」
  [テ] ダムインタビュー(67)長谷川高士先生に聞く『「保全工学」で、現在あるダム工学の体系をまとめ直したいと思っています』
  [テ] ダムインタビュー(66)神馬シンさんに聞く「Webサイト上ではいろんなダムを紹介する百科事典的な感じにしたい」
  [テ] ダムインタビュー(68)星野夕陽さんに聞く「正しい情報を流すと、反応してくれる人がいっぱいいる」
  [テ] ダムインタビュー(69)魚本健人さんに聞く「若い人に問題解決のチャンスを与えてあげることが大事」
  [テ] ダムインタビュー(70)陣内孝雄さんに聞く「ダムが出来たら首都圏の奥座敷として 訪れる温泉場に再びなって欲しい」
  [テ] ダムインタビュー(71)濱口達男さんに聞く「ダムにはまだ可能性があっていろんな利用ができる」
  [テ] ダムインタビュー(72)長門 明さんに聞く「ダム技術の伝承は計画的に行わないと、いざ必要となった時に困る」
  [テ] ダムインタビュー(73)横塚尚志さんに聞く「治水の中でダムがどんな役割を果たしているか きちんと踏まえないと議論ができない」
  [テ] ダムインタビュー(74)岡本政明さんに聞く「ダムの効用を一般の人々に理解頂けるようにしたい」
  [テ] ダムインタビュー(75)柴田 功さんに聞く「技術者の理想像は“Cool Head Warm Heart”であれ」
  [テ] ダムインタビュー(76)山岸俊之さんに聞く「構造令は,ダム技術と法律の関係を理解するのに大いに役に立ちました」
  [テ] ダムインタビュー(77)毛涯卓郎さんに聞く「ダムを造る人達はその地域を最も愛する人達」
  [テ] ダムインタビュー(78)橋本コ昭氏に聞く「水は土地への従属性が非常に強い,それを利用させていただくという立場にいないと成り立たない」
  [テ] ダムインタビュー(79)藤野陽三先生に聞く「無駄と余裕は紙一重,必要な無駄を持つことで,社会として余裕が生まれると思います」
  [テ] ダムインタビュー(80)三本木健治さんに聞く「国土が法令を作り,法令が国土を作る −法律職としてのダムとの関わり−」
  [テ] ダムインタビュー(81)堀 和夫さんに聞く「問題があれば一人でしまいこまずに,記録を共有してお互いに相談し合う社会になってほしい」
  [テ] ダムインタビュー(82)佐藤信秋さんに聞く「国土を守っていくために, 良い資産,景観をしっかり残していくことが大事」
  [テ] ダムインタビュー(83)岡村 甫先生に聞く「教育は,人を育てるのではなく,人が育つことを助けることである」
  [テ] ダムインタビュー(84)原田讓二さんに聞く「体験して失敗を克復し, 自分の言葉で語れる技術を身につけてほしい」
  [テ] ダムインタビュー(85)甲村謙友さんに聞く「技術者も法律をしっかり知らないといけない,専門分野に閉じこもってはいけない」
  [テ] ダムインタビュー(86)前田又兵衞さんに聞く「M-Yミキサ開発と社会実装 〜多くの方々に支えられ発想を実現〜」
  [テ] ダムインタビュー(87)足立敏之氏に聞く「土木の人間は全体のコーディネーターを目指すべき」
  [テ] ダムインタビュー(88)門松 武氏に聞く「組織力を育てられる能力は個人の資質にあるから, そこを鍛えないといけない」
  [テ] ダムインタビュー(89)佐藤直良氏に聞く「失敗も多かったけどそこから学んだことも多かった」
  [テ] ダムインタビュー(90)小池俊雄氏に聞く「夢のようなダム操作をずっと研究してきました」
  [テ] ダムインタビュー(91)米谷 敏氏に聞く「土木の仕事の基本は 人との関係性を大事にすること」
  [テ] ダムインタビュー(92)渡辺和足氏に聞く「気象の凶暴化に対応して,既設ダムの有効活用, 再開発と合わせて新規ダムの議論も恐れずに」
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