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ダムインタビュー(42)
今村瑞穂さんに聞く
「ダム操作の定式化と現場適用性の向上は車の両輪」

 今村 瑞穂(いまむら みずほ)さんは、旧建設省に入省後、四国地方建設局に勤務し、すぐに早明浦ダム調査事務所に配属されたことを契機に四国のダムに長く携わって来られました。昭和50年に、台風15号が四国地方を直撃した際には、当時完成したばかりの早明浦ダムがただし書き操作を行いましたが、その時に四国地方建設局の河川管理課長として対応されました。

 その後、土木研究所に勤務され、全国各地のダムに関わってこられました。
 これらの経験をもとに、ダムの操作方法について、顕在化してきた問題点の解決を自らのライフワークとして独自に研究を開始されました。
 平成6年に退官してからは、これまでの経験を生かして新たなダム操作理論をまとめ、平成9年には九州大学大学院博士課程に入学し、ダム操作の理論的解明と改善をテーマに学位を取得されました。平成23年には、これまでの研究成果をまとめた「ダム操作の理論と実際」を発表し、ダム操作に関する新たなルール作りの必要性を唱えておられます。

 今回は、今村さんにダムとの長年の関わりを伺いつつ、最近頻発しているゲリラ型豪雨や集中豪雨に際して、よりよいダム操作法確立のための取り組み等について詳しく教えていただこうと思います。
(インタビュー・編集・文:中野、写真:廣池)



遠い日の水害の記憶

中野: 今村さんが、大学で土木工学を学ぼうと思ったのはなぜですか?また、建設省に入ろうと思ったのはどういう理由からですか?

今村: 特別な理由はないのですが、あるとするなら水害の記憶かもしれません。私の生家は久留米市の筑後川沿いの農家で、昔は、雨が降るたびによく川が氾濫し田畑や通学路が浸水していました。家の近くには、旧建設省の筑後川工事事務所があり、改修工事用のトロッコやそれを引く蒸気機関車等を見ながら育ちました。昭和28年の西日本大水害が起こった時、私は中学1年生でした。激流に流されていく家の屋根にまたがって助けを求める人が橋桁にぶっつかって濁流に呑み込まれていく様子、浮き沈みしながら流されていく牛馬。目の前で破堤する本川堤防、流木と瓦礫に耐えきれずに大音響とともに崩壊していく鉄橋等々、目の前の光景は、まるで地獄絵を見ているようでした。

中野: 凄惨な洪水被害にあわれたのですね。

今村: 大規模な災害復旧工事が始まり、初めて見るブルドーザーやウインチの力強い動きに惹かれて毎日のように工事現場を見に行った覚えがあります。当時、村会議員だった父は、洪水で破壊された田畑や用水路の修復、新たに計画された内水排除施設設置のための地域の意見集約などに奔走していました。補修が成った鉄橋や堤防を見て、こうした大きな仕事に携わってみたいと思ったことはあります。その数年後になりますが、気が付いたときには大学の土木工学科に通学していた次第です。

中野: 建設省を選ばれたのはご自分の意思ですか?それともどなたかに薦められて?

今村: 当時は、殆どが先生の推薦で就職先が決まっていく状況だったと思いますが、公務員だけが試験を受けていました。そこで自分の力を試してみたいという単純な動機から受験し、その延長上に建設省があったように感じます。大学でダムの洪水調節機能について勉強していましたから、建設省に決まった時点からダム現場を志望しました。山奥のダムの工事現場は、都会の華やかさとは無縁の職場で、若い人から敬遠されるのが相場でしたから、同級生からは「物好きなやつだ」と見られていたかも知れませんが、逆に現場の皆さんからは温かく迎え入れて頂きました。

四国のダム造り〜早明浦ダム時代

中野: 最初の任地が四国の早明浦ダムの現場だそうですが、実際のダム工事を目の当たりにしてどう感じましたか?

今村: 昭和39年4月に建設省に入省してすぐ四国地方建設局に配属され、半年後に早明浦ダムに行ったのですが、この時は現地に調査事務所が開かれて2年目。まだ工事そのものは始まっておらず、調査と資料解析、設計・製図などほとんど机上作業の段階でした。
 その後、本体工事が始まる前に転勤してしまったので、実際の早明浦ダムの工事現場というものは体験しておりません。(笑)


早明浦ダム(撮影:灰エース)
中野: 配属されてすぐ工事に携わられたのかと思いましたが、実際に工事が始まったのはもう少し後ということですね。現場ではいろいろな方からご指導を受けられたとのことですが、どういった方々ですか?

今村: 当時、四国地建にはダム技術者はそう多くいませんでしたので、本省からの応援も含めた混成チームでした。事務所長は、本省開発課から相原信夫さん、調査設計課長に糸林芳彦さん、副所長には、四国地方建設局から河川計画課長の中西秩さん、計画係長に、山内彪さんが来ておられました。私は、糸林さんと山内さんの直属部下として調査設計課計画係に配属されました。

中野: ダム造りについては何か手引書というか参考にしたものはあったのですか?

今村: 現場事務所には、米国の開拓局が編纂した、重力式ダムの技術マニュアルというか、解説書を翻訳した海賊版にあたるものが一冊ありました。これは糸林さんが個人的に持っておられたもので、それをみんなで回し読みしながら勉強しました。あとは相原さんが勤務時間外に(相原学校と呼んでいましたが)勉強会をやっておられましたので、ここで、ダムの細部の名称や埋設物の機能などの知識を吸収することが出来ました。
 現場では、大学で習った水理学や構造力学を実践できる機会が沢山ありました。また、経験の少ない我々のような新米の考えでも一生懸命に取り組めば、柔軟に受けとめて貰える雰囲気が事務所内にあったように思います。
 こうして早明浦ダムをはじめとして、大渡ダム、竜門ダム、八ッ場ダムなど4つのダム現場に配属され、計画調整、現地立ち入り交渉、調査・設計等の業務に従事しましたが、すべて本体工事の着工前に次の任地へと転勤になり、残念ながら一度も工事そのものを体験することはありませんでした。

四国のダム造り〜大渡ダム時代

中野: 早明浦ダムは、岩盤が弱かったので新しい考え方で設計に取り組まれたと伺いましたが、大渡ダムも相当に難しい岩盤だったそうですね。実際にはどのように対処されたのですか?

今村: 岩盤が弱いという言い方は正しくないかも知れません。単純に言葉通りに受け止めると、岩盤に何か問題のあるところにダムを建設したのではないかという誤解を生じかねません。そうではなく、岩盤にもある程度強固なものと、相対的に軟弱なものがあるとすると、そのどちらにも同じような安全度をもったダムを造るという目的からみて、岩盤が相対的に軟弱な場所であっても、ダムの断面積を大きくすれば相対的に安全度は上昇するので、ちゃんと安全なダムが造れるということを示しています。


ダム設計のコペルニクス的転換

中野: 岩盤の強い、弱いということにかかわらず、一定以上の安全度を確保したダムを造るための設計をするということでしょうか?

今村: コンクリート重力式ダムの設計のポイントは、まず岩盤に乗っているダム本体が、水圧等の外力で転倒しないこと、もう一つは、ダム(基礎岩盤)がすべって壊れる、つまりせん断応力に耐え得ること。この2つの条件を満足させる必要があります。
 従来は、十分に岩盤の強じんな場所にダムを建設していましたから、ダム本体が転倒しない条件さえ満足させればよかったのですが、ダムの数が増えるに従って、岩盤のせん断強さが必ずしも充分でないところにもダムを造る必要が生じてきました。
 従って、現地で岩盤のせん断強さを測定して、ダムに作用する荷重によるせん断力が、許容せん断力以内に収まるようなダムの断面の大きさを確保することで、従前のダムと同じ安全度が確保されるような方法が講じられるようになりました。つまり、設計のポイントが、ダムが転倒するか否かの問題から、岩盤がせん断に対して安全であるか否かの問題に変わってきたわけです。

中野: なるほど、いろんな地質、岩盤の性質によって、より幅広く対応してダムを造るという方向になっていったのですね。

今村: 早明浦ダムの基礎岩盤では、高さが70〜80m程度のダムですと従来の考え方で十分に安全なダムを設計することが出来たのですが、100mをこえると剪断力にたいする安全率が不足することがわかりました。 そこで、ダム本体の断面形状をじっくり計算し工夫することで、これまで不可能とされていたところにもダムの建設が可能になりました。こうした考え方をリードされてきたのが、当時の土木研究所ダム構造研究室長の飯田隆一さんです。この考え方は、よく天動説から地動説への転換にたとえられて、ダム設計のコペルニクス的転換などと表現されておられました。早明浦ダムの設計は、水圧でダムが転倒してしまう心配よりも、すべって壊れないような設計へと移っていく、我が国のコンクリート重力式ダム設計技術の転換点にあったわけです。

中野: すると早明浦ダムは、そうした強度が必ずしも十分でない岩盤でのモデルケースになったのですね。

今村: 特徴的なのは、早明浦ダムの岩盤は、強度が必ずしも十分ではないと言ってもほぼ均質な物理特性を有する岩盤でした。従って、それまでの知見からは、岩盤内の応力がどの様に分布するかはだいたい想定することが出来ました。だから十分に断面を大きくし、すべらないようなところまで計算をすれば良かったのです。
 しかし、大渡ダムでは、物理特性の異なる岩盤が上下流方向にサンドイッチ状に分布しており、当時の知見では、こうした特性の分散した岩盤内の応力が、どの様に分布するかをうまく把握することはできない状況でした。従って、局部的な岩盤内の剪断力に対する安全性を確認することが出来なかったのです。

中野: その困難な問題をどうやって解決したのですか?

今村: 大渡ダムでは、飯田さんをはじめとする土木研究所の皆さんにご指導を頂きながら、複雑な基礎岩盤上にどれだけの大きさのダムをどのように安全に乗せられるか?というところを解析しながら、新しいダムの安全設計の確立に取り組みました。具体的には、当時開発されたばかりの有限要素法解析の技術を用いて大型コンピュータで計算し、岩盤内の応力分布を細かく明らかにしていくことで、局部的に安全度の不足するところがないかを計算しながら、岩盤のせん断に対する安全性を確認することが出来ました。この安全度確認の方法は、その後のダム設計あり方の1つの方向を示していると思います。
 日本は火山が多く、地震も多い。地質構造は非常に複雑です。それだけ岩盤の性質も多様です。また国土が狭いので、強固な岩盤のダムサイトは限られますから、ダムが乗っかる岩盤の強さを調べ、十分に強固でなければダム本体の断面形状を工夫していくことで、岩盤の負担を小さくするという設計に移行できたことがとても重要で、それにはコンピュータ技術が発達し、堤体と岩盤内の応力の解析方法が進歩したことが非常に役立ったのです。

中野: 難しい問題に直面した時、技術者として気をつけないといけない、大事なことは何でしょうか?

今村: ダム工学は、総合技術といわれています。単純に一人の技術者の能力の範囲内で解決できるものではありません。従って、出来るだけ多くの分野の専門家の意見を謙虚に取り入れながら、その段階における技術水準に見合った最高の解を引き出す努力をすべきだと思います。

ダムの操作法の改善に取り組む

中野: 早明浦ダムのただし書き操作(昭和50年8月台風15号)での経験をきっかけに、それまでのダムの操作、管理運営法に疑問を抱かれたそうですが、何がいちばん問題だと考えられたのでしょうか?

今村: 四国地方建設局の河川管理課長として現地との調整や本省河川局との連絡を担当していた時、四国地方を直撃した台風15号で、早明浦ダムは初めて本格的な洪水に対処することになりました。

中野: 現地の管理事務所におられたのではなかったのですね。

今村: 早明浦ダムは洪水を迎える前の段階では渇水状態でしたから、貯水位は洪水調節を開始する洪水期制限水位よりも可成り低い位置にありました。多目的ダムですから、当然のこととして、まずは貯水位を洪水期制限水位に回復させる見通しをたてる必要があります。ところが、どの様に放流量をコントロールして貯水位を洪水期制限水位に擦りつけていくか、さらには、どの様にして洪水調節操作に移行するかのシナリオが、現場と管理部門の間で十分に共通認識として確立されていないという状況でした。
 それまでの私の頭の中には、貯水位が洪水期制限水位にあり、計画洪水波形が流入してくるケースしか考えていませんでしたから....

急速な水位の上昇に慌てる

中野: 完成して間もない頃、いきなり洪水になりそうな台風がきたのですね?

今村: 低かった貯水位がだんだん上昇してくるのですが、上がり方が急速でした。次に、定刻に現場から報告されるべき貯水池への流入量が、ある段階から定刻を過ぎても報告されない状況が続きました。そうなると流入量の増えてくる割合がわからないので貯水位や放流量の動向も本局ではつかめなくなってしまう可能性がありました。

中野: 貯水位はどんな状況だったのでしょうか?

今村: 早明浦ダムの計画流入量は、4700m³/sだったのですが、実際はその数値をはるかに超えて7200m³/sにも及びました。こうなると、貯水位もサーチャージ水位を超える可能性が懸念され、計画通りに洪水調節を継続するダム操作が不可能ということになり、ただし書き操作の体制をとる必要があると判断されたのです。
 最大放流量の計画値は2000m³/sでしたが、この時は結果として2500m³/s放流しました。すると下流の護岸が壊れたり、ダム直下流の家も壊されたという被害が出てしまいました。計画値を超えて放流したので、いろいろと支障が出て、批判も浴びました。

 この時は、洪水のはじまりから終わりに至るまで、あらかじめ予想していなかった、つまり想定外の状況に直面させられたのです。

中野: それが、ただし書き操作をしたということになるのですね。

今村: ただし書き操作というものは、大変にわかりにくい表現で、操作規則には、こういう時はこうしなさいというルールがあります。例えば、流入量に対して5割放流しなさいと書いてあれば、流入量が1000m³/sの場合は、放流量は500m³/sになります。ただし、場合によっては、それによらないことも出来ると書いてあります。ルールに従えない状況においては、それ以外のことも出来るということで、想定外の状況にあたっては、操作規則に書いていないことで対処することが出来ると。それが、ただし書き操作の概念です。

後戻りの出来ない、ダム操作

中野: ただし書き操作は、定められたルールではダム操作ができない状況になった時にする例外的な操作という理解でよろしいのですか?

今村: そうですね。概念としては想定外の状況については、操作ルールに書いていない方法で対処できるという事ですが、それは想定外のやり方を認めるというだけで、どういうふうにするかの手順みたいなものがありませんでした。
 当時は「ダムをどのように安全に設計するか」について、ダム技術者の主要な関心が寄せられて、ダムが完成した後は、「管理は現場に任せておけば宜しいのではないか」という、あまり深くは考えられてこなかったという反省があります。少なくとも、それまでの私はそのような認識でいました。
 ダムの計画や設計は、時間をかけて様々な人の指導を受けながらできますし、まずい場合にはやり直しも可能です。しかし、ダムの操作はそうはいきません。現場で、限られた情報と限られた時間の中で、瞬時に判断して行動しなければならないし、もし仮に間違ったとしても後戻りができません。

ダム操作とはなんたるかを突き詰める

中野: どんどん近づく台風、上昇してくる貯水位は、一時も待ってはくれませんからね。

今村: この時のダム操作については、後で、内外から様々な疑問や批判が寄せられました。しかし、それに答えようとすると、ダム管理者として納得のいく説明が殆ど出来ないというもどかしさだけが残りました。この様な状況では、水没者の犠牲のうえに莫大な予算を投じてダムを建設しても、地域の方々の理解は得られないのではないかとの懸念を持たざるを得ませんでした。
 そこで、私なりに洪水の始まりから終わりまでのすべてのプロセスを、自ら実行するとすればどの様な課題があるのか、また、どの様にすればそれを解決することが出来るのかを早明浦ダムの体験とダブらせて研究してみることとしました。



 その結果つぎのようなことが判りました。
 第一に、洪水調節操作は洪水の始まりから終わりまで、洪水前の対応のあり方、洪水調節時の対応のあり方、ただし書き操作のあり方、貯水位の低下の方法などの異なった種類の同じ重みの操作の集積であると考える必要があるということです。
 第二に、それぞれの操作から次の操作への移行に当たっては、適切な判断基準を設けて、誰がやっても、何時やっても同じ答えとなるようなシステムを作る必要があるということ。
 第三に、最も重要な操作指標である流入量の把握方法には、幾つかの課題があるのではないかということ。
 それから、これらの課題の一つ一つに対してどの様に対処していくかを考えた場合、先ず、水理学的、数学的観点からそれぞれを明らかにしていく必要があると感じました。

中野: まさに、想定外の体験をされたことで、当時のダム操作法についての問題点に気づかれたと?
今村: 昭和50年頃、早明浦ダムではまだ、こうしたただし書き操作の概念はあっても、その具体のルールというものがまだなかった。それ以前に、昭和47年頃から岡山県など中国地方でいろんな災害が起きたことがきっかけになり、早明浦ダムも含めていろいろと想定外操作のルール化が検討され、昭和53年にただし書き操作のルールについての通達が出されました。

ダム操作の現状を知るためのアンケート

中野: その後(昭和53年)土木研究所に移られ、ダム操作の改善の研究に取り組まれどのようなことをされたのでしょうか?

今村: ダム操作に関する様々な課題があっても、私が一人だけで唱えても単なる独りよがりの意見では説得力がありませんから、土木研究所で最初に取り組んだのは、管理中のダムで何が問題となっているかを客観的に把握することでした。
そして、建設省関係のダム管理所にアンケートを出して、その結果をまとめると次のようなものに整理することができました。
・ ダム管理所長の殆どが貯水池への流入量の把握に苦労している。
・ 定水位操作をしているのにもかかわらず洪水期制限水位を守ることが出来ない。
・ 洪水を迎えるにあたって、いつから放流開始すべきかの判断に迷っている。
・ 仮にただし書き操作水位を越えたとしても、結果として洪水調節が継続できた場合があり、ただし書き操作に移行する必要がなかったのではとの批判がある。
といった内容です。
 これらは、私が早明浦ダムの出水で体験して感じた課題を裏付けるようなものでした。
定水位操作の課題は流入量の把握の問題に帰結しますから、結果的には流入量把握の課題と同じ問題であると言えるかもしれません。

中野: 急速に流れ込んでくる水の量を正確に把握することが重要なのですね。

今村: 流入量の計算方法としては、操作細則においては、貯水池上流地点の河川の水位から求める方法と、一定時間間隔の貯水位の変化と放流量の合計量から求める方法の2つの方法が示されています。
 この2つの方法のうち、いろいろの理由があると思いますが、殆どのダムでは後者を採用しています。しかしながら、この方法については幾つかの課題があることが判りました。
 一つは、流入量の計算過程で計算される流入量には実際の流入量に対して時間的な遅れが生じること。
 二つは、貯水面が風やゲート操作などの様々な要因によってかく乱されており、正しい貯水位を把握することが難しく、計算される流入量に誤差が生じることです。

水位計の誤差の量を考える



中野: 風でかく乱されるのですか?水面に波がたつからですか?

今村: 実際に見てみましょう。これはダムの貯水位計のグラフです。例えば、1平方キロの面積の貯水池ですと、水面の高さが1cm違うとどうなるでしょうか?計算される流入量にしておよそ16m³/s違ってきます。早明浦ダムの場合は、貯水池の面積が7.5平方キロありましたから、その7.5倍でおよそ100m³/s違ってきます。誤差がたった1cmですめば良いのですが、大波が立って10cmも違うとどうでしょう。これらも、従来の考え方からすると想定外ということになるのかも知れません。
 こうした誤差も踏まえて、難しいダム操作を行わなければなりませんが、想定を超える事態が生ずる可能性があるときは、大きな放流量になることもありますよということをやはり地元の方にもわかっておいてもらわないといけません。急に大雨が来てダムが一杯になりそうだから、ただし書き操作で計画値を超えて放流しますというのではいけない。そういうところをあらかじめきちんと説明しておくことが必要だと思います。

中野: ダム操作は、誤差がそれだけあるということだと、本当に難しいことですね。

今村: 先ほど述べたように、軟弱な岩盤の場所でもダムを造る際の安全度確保については、ものすごく技術が進歩しました。でもダムの運用という面では、そこまで議論も深まらない状況があったように感じられます。
 つまり、操作の規則はあっても、そこに書かれていない状況になった時、どう判断するのか指針がない。
 貯水位の誤差もあり、計算結果は変化しますが、流入量の把握精度の向上には限りがあります。世の中に対して、ダム貯水池への流入量の正確な把握に課題があるということが過度に強調されてしまうと、ダムに対する信頼はゆらぎかねませんが、これは避けて通ることの出来ない課題なのです。

ダムを安全に操作するために何が必要か?

中野: 説明を聞けば聞くほど、ダムの操作というのは、シビアな問題なのですね。

今村: 私は、ダム操作を考えるにあたり、流入量の把握精度の向上をはかりつつ、一方では、貯水位のかく乱に対しても安定度の高い放流量を決定するシステムを確立させることを並行して考えていくことにしました。
 その結果、貯水位(貯水量)から直接に放流量を計算する「水位放流方式」を提案したのです。貯水池への流入量は、もともと一定時間内の貯水位の変化と放流量から計算されます。しかし、流入量の計算過程で誤差が発生するのであれば、流入量の計算過程を省略して貯水位から直接に放流量を計算すれば決定する放流量の誤差は少なくなるのではないかというのが議論の始まりでした。結果、水位放流方式によって大幅に放流量計算誤差を改善することが出来ました。
また、「いつから放流すべきか」、「いつからただし書き操作に移行するか」といった課題についても「限界流入量」と言う新しい指標を導入して、「誰がやっても同じ答え、何時やっても同じ答え」が出るようなシステムになるように取り組んできました。
 ここでは時間的にも紙面的にも限りがありますから、具体的内容については参考文献として、また、私のホームページを紹介させていただきますので、詳しい説明はそちらに譲りたいと思います。

パソコンの発達とダム操作のシミュレーション

中野: 今村さんが新しいダム操作の理論を解析していくに当たり、パソコンで計算ができることがたいへん役立ったそうですが、具体的にどんなメリットでしょうか?

今村: 洪水調節の計算をするためには、様々な洪水パターンを想定し、ダムの操作方法を設定して調節計算を実行し、その結果を検証する必要があります。したがって、膨大な計算を行ってそれを整理し、仮説として考えているシステムが効果的であるか否かを判断する必要があります。パソコンの無い時代はこれらの計算に必要なプログラムを作成し、洪水波形やダム諸元などの入力データを作成し、コンピュータがある計算センターに実行を依頼していました。これらの作業は手間のかかる煩わしい作業で、個人的に実行するのは不可能であると言わざるを得ません。
 一方、パソコンが普及したことにより、それまで個人的に実行出来なかった分析作業が煩わしい手続きを省略して直ちに自宅の机の上で実行出来るようになりました。

中野: パソコンが普及したおかげで、大型コンピュータで計算してもらわなくても自分でできるようになったと?

今村: それこそコンピュータ技術が進化したおかげでしょう。それと、インターネットの登場で、こうした研究成果をホームページにまとめてリリースすれば、より多くの人に自分の考え方を情報として、自由に発信することが出来るわけですから、パソコンの利便性を最大限に活用できることになります。インターネットでアクセスをしていますと、時々私のホームページに関した記事にヒットすることがあります。全国のどこかで私のHPにアクセスして頂いている方がおられると言うことですから、ITメディアの情報発信力は凄いなあと感じることがしばしばです。最終的にはFace book等による双方向のコミュニケーションも出来ればと考えています。(本文末の文献欄にホームページのURLまたはキーワードを掲載していますからアクセスしてみて下さい。)

ダム操作の理論的解明と改善をテーマに学位を取得

中野: 今村さんは、早明浦ダムでの経験をきっかけに、新たなダム操作法を編み出すことがライフワークとなったということですが、どういうふうに取り組もうと思われたのですか?

今村: 研究所に在職している時、役所から水位放流方式について解説を求められて説明をしたことがあります。そうしたところ「これは誰が考えたのですか?」との質問に、「私が考えました」と答えたところ「今村さんが考えたのですか?」と担当者のネガティブな反応に愕然としたことがあります。
 また、「水位放流方式に関する参考文献はないのでしょうか?」というのもよく尋ねられました。とにかく「私が考えました」だけでは、なかなか信用して頂けませんでした。
そこで、いろいろと外国の文献等を探しました。しかし、ダムの計画や設計・施工に関する文献は沢山あるのですが、管理に関する文献はおろか操作規則すら見つけることが出来ませんでした。ある時、土木研究所で研究員をしておられた角さん(現京都大学教授)に問い合わせたところ、アメリカ陸軍工兵隊のダムの管理マニュアルを紹介して下さいました。

中野: アメリカは、陸軍工兵隊と開拓局がダムに関わっているのでしたね。

今村: その管理マニュアルを見たところ、貯水位から直接放流量を決定する操作ルールが掲載されていました。それで今度は、疑っていた担当者にマニュアルを示して説明したところ、当時の我が国のダム技術においては伝統的にアメリカの情報は受け入れられやすい傾向にありましたから、ようやく納得して頂きました。
 アメリカでは貯水池の面積が大き過ぎて、誤差もすごく大きくなるので、流入量の計算が不可能であり、この様な方法を採用しているのだと思いますが、この方法の特性を解析的に分析してみると、いろいろな点においてメリットがあることが判りました。
また、洪水調節操作に関する課題を整理した段階で、それが一朝一夕には解決出来る代物ではないということも感じました。ダム操作に関する役所の認識も今一歩と言う感じでした。

中野: やはり管理運用についての議論は、なかなか深まらなかったのですね。

今村: こうした議論は他にもあって、ある時、洪水前放流(いつから放流するか?)について、その課題と対策を説明したことがあります。ところが、「そんなことが問題になるはずがない。貴方の独り善がりではないか」とか、「そんなややこしいことを考えるより洪水の最後の部分を貯めればよいではないか」といった議論の入り口での厳しい批判を受けました。
 ダム操作に対する意識の程度を見事に露呈した発言ですが、この課題を提言してから15年が経過しつつありますが、今は、ようやくその存在と重要性が認識され始めたのではないかと感じています。また、管理者側からダムの操作の話をしてくれと依頼されることがあります。「どのくらい時間をいただけますか?」と訪ねると「1時間程度でお願いします。」と言う返事が何のためらいもなく返ってきます。私は40年間考えても、いまだに満足のいく解答が得られないのですが…。(笑)

一つとして同じものがないダムをどう操作するか?

中野: ダムの管理や操作ルールについての議論が進まないのはどうしてですか?

今村: それは、ダム操作は社会的影響が大きく、そのため、きわめて行政的な色彩が強く、規則や基準を強く意識しなければならないからでしょう。いかに合理的で新しい概念の操作方法を提案したとしても、現場の理解はもちろん、河川行政に携わる人の理解を得て、その上で関連する諸規定等を、一つずつ全部変更していかない限り、現場で採用されることにならないだろうということです。
 ダム操作のあり方を変えていくことについては、技術的な解明もさることながら、行政的な対応も含めて幅広く進めて行かなければならないと感じました。単に技術的な課題を明らかにすれば解決する、という単純なものではないと言うことで、私のライフワークとして気長に取り組んでいこうと思ったのです。

中野: それぞれのダムには設置目的があるので、そのための運用についても、きめ細かな法律、規則がある。

今村: 行政を動かし、納税者の理解を得ると言うことになれば、単に私個人の考え方として整理するのではなく、社会的にも認知されるような手続きを踏む必要があるのではないか、また、技術的に見てもダム操作の始まりから終わりまでをすべて定式化すると言うことになれば科学的観点からのいっそうの究明が必要ではないかと感じました。それで、大学院の博士後期課程に再入学して指導をしていただくことにしました。また、提案している課題と対策が、知的財産として価値あるものと公に認知して頂くべく特許申請をして、本件に関わる課題で3件の特許も取得しました。

中野: それで博士号を取ることをめざされたのですか?特許も取得されて…。

今村: ある程度、研究が進んだ段階で感じたことですが、ダム操作の課題の本質が何であるか、それに対してどの様に対処すべきかを行政、現場、一般納税者との間で共通の認識の上に立つ必要があるのではないかと考えました。これは、原子力発電所でも同じでしょう。専門家だけが、炉の中はどうなっているかが判っているというのでもいけないし、原子力の理論はわからないという人にも情報を開示して、こういう状況でこういうことが考えられるのだと、こういう対処をしますよと言えないと…。
 ダムでも、ちゃんとデータを示して、こういう水の溜まり方になったら、いつから、こうして流していきますと、下流の人にも判るように説明が出来ないといけないでしょう。今は、ダムの設置者、管理者、地域住民など一般の人たちの間で、意識の乖離が大き過ぎるように感じられます。
 こうした状況で、わかりやすくするには、先ず、洪水のはじまりから終わりまでのすべてのプロセスを徹底的に定式化する必要があると考えました。この点についてはかなりの前進が得られ、私なりの考えを「ダム操作の理論と実際」として取りまとめて、冊子を作成しました。

ダム操作の定式化と現場運用の標準化を

中野: ホームページを通じても情報発信されているのですね。

今村: 現場で実践してもらえるように取り組んでもらいたいのですが…。
 よく「今村さんのやっていることは判りにくい。(独り善がりである?)」と皮肉混じりのコメントをいただくことがありますが、ダム操作の定式化と現場適用性の向上は車の両輪であり、それぞれに分けて考え、対応するべきであると思っています。
 現場適用のポイントについては、これらの定式化された操作ルールを最終的にはダム管理用制御処理設備(いわゆるダムコン)の中でどの様にプログラム化するかにかかっていると思います。

中野: できるだけ多くの人に理解していただきたいですね。


今村: ダム管理所の職員は、操作規則やその他のマニュアルに記載されたことと異なったことをして失敗すれば、とがめを受けることになります。従って、どの様な合理的な操作方法を提案しても、操作規則やマニュアルを変更しない限り、現場で適用することにはなりません。一方では、標準操作規則には、新河川法が制定された40年前に策定されたものが、そのまま残されて運用されている部分もあります。
 従って、操作規則のマニュアルとも言えるダム管理の例規集とダム管理用制御処理設備標準設計仕様書(案)をどの様な形で見直して実現していくかという行政レベルの議論の中で展開される必要があるのではないかと考えています。
 現実的には、従来方式の考え方は残しながら、新しい方式を併記する形で「ダムの管理例規集」や「ダム管理用制御処理設備標準設計仕様書(案)」等の解説に書き加えれば、さらなるダム操作の進化を可能とするのではないかと考えられます。
 高度に定式化されたダム操作ルールがこの様なマニュアルの中で何らかの形で位置づけられれば「誰がやっても同じ答え、何時やっても同じ答え」が得られる操作システムが、時間の経過とともに無理なく実現できるものと確信しています。

より深い、ダムへの理解をどう求めるか

中野: 乗り越えなければならない壁は、まだまだ高いのでしょうか?

今村: こうした新しい操作方法という考え方が必要だしあり得るということが、一般の人、納税者の側に殆ど認識されていないことが、ダムそのものが社会的に受け入れられていない原因の一つにもなっているのではないかと思います。
 私はある時期、国立大学の3回生に河川工学を講義しておりました。そこで、夏休みの研究課題として、洪水波形とダム諸元を設定して、一人ひとりの答が同じにならないように工夫して、穴あきダム洪水調節効果の計算を実施し、感想を記述させることにしました。



中野: 学生の反応は、どういうものでしたか?

今村: ほとんどの学生が「実際に洪水調節の計算を実施してみて初めてダムの洪水調節効果というものを理解することが出来た。マスコミなどでダム不要論が展開されているが、今回、自分でダムの洪水調節の計算を体験して、改めてダムの必要性を再確認することができた。」といった感想を書いていました。つまり、理系の学生が計算をしてみて初めてダムの洪水調節機能が判るというほどでは、その効果を一般納税者レベルで理解を深めることは、どれだけ難しいかを痛感することになったという訳です。

中野: なるほど、わかりやすい例えかも知れません。専門家になるはずの学生でも、実際に計算を体験してみなければ明確に効果が判らないものが、一般の人に、説明するだけで判ってもらうというのは至難の業であると…。
今村: 今でも、ダムの洪水調節に関する機能や働きについての情報開示は、十分とは言い難い面もありますが、先ず大切なことは、ダムの現場において管理者は、操作のプロセスを徹底的に解明し、それを、自信を持って情報開示できる環境を、整えることであると感じています。「誰がやっても同じ答え、何時やっても同じ答え」が得られるような操作法を実現できれば、自信を持って情報を開示できる環境が整うのではないかと。
 また、ダムマニアの皆さんなどの、客観的にダムを見ることが出来る人々を通して、一般の人たちに情報の伝達を行えば、行政の側と納税者との意思疎通もさらに展望が開けてくるのではないかと期待しているところです。

ダムへの無理解が招く、無用の批判

中野: 平成23年9月の台風による和歌山県での洪水被害については、発電ダムの事前放流が問題視され、ダムが原因で洪水になったと非難を受けました。今後、こういうことが起こらないようにしていくには、どういうことが考えられますか?

今村: 先ほど、ダムの操作は極めて行政的であると申し上げました。従って、この課題も河川法的な枠組みの中で考えると整理しやすいのではないかと考えます。
 河川法44条には、河川の従前の機能の維持について規定されています。ここではダムの設置により、河川の従前の機能が維持されずに災害の誘因となったのではないかといった視点からの問題提起があるのかも知れません。わかりにくい表現ですが、ダムがない場合と同じだけ、つまり流入した雨をそのまま流した場合と同じ川の状態を維持することができたか、どうかを問題視するものです。
 また、河川法52条には、災害防止のための河川管理者洪水調節に関する指示についての規定があります。これは、特定規模のダムについて、洪水の災害が予想される場合においては、河川管理者は利水ダム設置者に対して、洪水調節のための指示を行うことが出来ると規定されています。利水ダムであっても災害が予想される場合は、事前に放流して洪水調節の体制をとることを指示できるとしているのです。
 この指示は、あらかじめダムの管理者と河川管理者の間で周到な対処方法に関する、事前の意思疎通が不可欠で、このことにより利水事業に支障が生じた場合にはダム管理者に対する補償の問題が出て来ますので、それもクリアにしておかねばならないのです。また、利水ダムとして設計されたダムで、本当に洪水調節が実行可能であるかどうかといった水理構造的な検討も必要となってくるかも知れません。
 我々はこのような河川法の体系の中で、どの様な立ち位置で議論をしているかを認識しながら対処していくことが必要でしょう。

中野: 洪水被害が出た場合、マスコミはとにかくダムを悪くいいがちですし…。

今村: どうも報道が、事実や科学的な論拠に基づく冷静なものでなく、感情論的なものが多いように見受けられました。
 問題は、治水ダムと違って、利水ダムにはもともと洪水調節機能は持っていないということをメディアも地元の人も判っていないのではないかと。それについては設置者も管理者も日頃の情報発信不足を指摘されても否めません。こうした問題を抜本的に解決するためには、ダムの利水容量洪水調節容量に変換し、その損失に対して補償したり、新たな洪水調節門扉を設置したりして、その費用を河川事業として負担している例(鶴田ダムのケース)もあるので参考になるのかも知れません。和歌山県の場合でも、これら幾つか考えられるシナリオの中でどのレベルにおいて対処していくのが適切であるかと言ったシステマティックで冷静な分析と判断に立った議論が必要ではないかと考えられます。

ダムをより長く活用していくために、技術の継承を

中野: 新規のダム計画はなくとも、リニューアルを考え、ダム技術を絶やさないようにしていくには、どういうことをすべきと考えますか?

今村: ダム技術ということではないですが、今後の河川の災害への対応としては、客観的に見て、貯める、流す、逃げる、の3つの要素をどの様に組み合わせて最適解を求めていくかと言うことだと思います。そこでは、貯める機能を無視した、いわゆるダム抜き治水的発想の災害対応は虚構にすぎないと思います。

 天然の湖は長い時間をかけてその地域の自然環境や社会環境と順応しながら治水利水機能を発揮しています。我々が建設して来たダムも時間の経過とともに、ダム湖が天然の湖と同じようにその地域の自然環境や社会環境の一部として順応しながら、その機能を発揮していくものと期待しています。その過程で様々な過渡的な問題が発生するかも知れませんが、それを解消しながら新しい河川の安定状態へ導いていく知見と技術を展望する必要があると考えています。具体的な方策を述べるのは難しいのですが、やはり総合技術であるダムを真正面に捉えて、これらを支えていく技術が既存のものであるか新たに開発すべきものであるかは今後のダムのあり方を見据えながら適切に取捨選択していく必要があるのではないかと思います。


 建設後何百年も経過した満濃池のような、ダムの歴史をひもときながら天然の湖のような安定化に向けての情報を集積して学習していくことも今後のダム技術の1つの方向かも知れません。

ダムのサポーター、ダムマニアについて

中野: この6月の国際大ダム会議京都大会では協会として展示ブースを設けました。協会の展示ブースではいわゆるダムマニアさんが海外の方に日本のダムについて熱心に説明をしてくれました。我が国ではダムについて何かと批判的な声が多く聞かれ、心配が多いのですが、応援してくれるダムマニアさんの存在を心強く感じました。こうした一般のダムマニアさんについてはどう思われますか?

今村: 大学3回生の例で述べたように、ダム行政と一般納税者との意識は想像以上にかけ離れたものであると思います。しかも、一般納税者の意識はマスコミの報道レベルの情報によって成り立っているように感じられます。これらの意識のギャップを少しでも縮めることが出来れば、ダムに関する理解度も少なからず改善されるのではないかと思います。
 これにはダム管理者の情報開示が前提となりますが、ダムマニアの皆さんにはダム管理者と一般納税者の間を取り持つ貴重な役割を果たしていただけるものと期待しています。

若手技術者に期待すること

中野: これからのダム技術を継承していって欲しい、若手の技術者に対して、何かエールを贈るとしたら、どういう言葉をかけますか?

今村: 国際大ダム会議に参加して感じたことですが、アフリカなどの途上国のダムについて、
ヨーロッパ諸国の技術者の関与が目立ちました。我が国のダム技術もこれら途上国のダム建設に大いに貢献していくべきであると感じました。
 また、ダムと新たな自然環境や社会環境との順応のあり方についての展望が若い技術者の取り組みによって開かれていくものと期待しています。 
 さらに、ダムは莫大な費用と長い時間をかけて建設されるわけですが、これらの苦労は完成されたダムが適切に操作運用されて初めて生かされると言うことを肝に銘じて、ダムの建設とともにその操作のあり方について同じ重みをもって取り組んでいただきたいと思います。


中野: 本日は、たいへん貴重なお話をありがとうございました。



参考文献
ダム操作の理論と実際 ダム操作研究会(未定稿)
ダムの管理例規集 河川局河川環境課監修 ダム水源地環境整備センター編
ダム管理用制御処理設備標準設計仕様書(案)同解説 ダム水源地環境整備センター編
HP  ダム操作の理論と実際
キーワード 今村瑞穂 ダム操作


(参考)今村瑞穂さん プロフィール

今村 瑞穂(いまむら みずほ)
昭和15年6月7日生

学 歴  昭和39年 3月27日 九州大学工学部土木工学科卒業
     平成 9年 4月 1日 九州大学大学院工学研究科 
                都市システム工学専攻博士後期課程編入学
     平成11年 3月31日 都市システム工学専攻博士後期課程終了

職 歴  昭和39年 4月 1日 建設省に採用、四国地方建設局企画室に配属
     昭和39年10月15日 早明浦ダム調査事務所調査課
     昭和41年 4月 1日 早明浦ダム工事事務所調査設計課設計係長
     昭和42年 4月 1日 早明浦ダム建設事業が水資源開発公団に移管のため
                 水資源開発公団に出向
     昭和43年 7月15日 四国地方建設局企画部企画課企画係長
     昭和45年10月 1日 四国地方建設局大渡ダム工事事務所調査設計課長
     昭和49年 4月 1日 四国地方建設局企画部企画課長補佐
     昭和50年 4月 1日 四国地方建設局河川部河川管理課長    
     昭和51年 7月 1日 四国地方建設局河川部河川計画課長
     昭和52年 6月 1日 河川局開発課長補佐に配置換
     昭和53年 9月 1日 土木研究所ダム部水資源開発研究室長に配置換
     昭和57年 4月 1日 九州地方建設局竜門ダム工事事務所長に昇任
     昭和58年12月16日 関東地方建設局八ッ場ダム工事事務所長に配置換
     昭和62年 4月 1日 河川局開発課開発調整官に昇任
     昭和63年 4月 1日 九州地方建設局筑後川工事事務所長に配置換
     平成 元年 7月 1日 九州地方建設局企画部長に昇任
     平成 3年 4月 1日 岡山県土木部長に採用
     平成 5年 5月 1日 水資源開発公団筑後川開発局長に採用
     平成 7年 5月27日 (社)九州建設弘済会理事長に選任
     平成13年11月30日 (社)九州建設弘済会理事長を退任
     平成14年 1月 1日 (株)建設技術研究所に入社
     平成23年 3月31日 (株)建設技術研究所を退社
     平成21年 4月 1日  財団法人 筑後川水源地域対策基金 理事
                  現在に至る

[関連ダム]  早明浦ダム(元)  大渡ダム
(2012年10月作成)
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