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ダムインタビュー(30)
樋口明彦先生に聞く
「ひっそりと自然の中に佇むようなダムが美しい、とスペインの名もないダムを見て気づいた」

 樋口明彦(ひぐち あきひこ)九州大学工学研究院准教授は、景観学・都市及び地域計画学をご専門とされており、これまでいくつもの都市計画や地域起こしのためのプロジェクトに参画してこられました。そして、景観デザインからアプローチする社会基盤整備のあり方について、斬新なアイデアの数々を提案するなど、活発な活動をしておられ、2009年には「遠賀川 直方の水辺」で土木学会デザイン賞最優秀賞を受賞されています。

 一方、九州には特徴あるダムが多々あります。例えば、明治時代に造られた古い水道用ダムを保存改修して活用している長崎県の本河内高部ダムや、旧ダムを保存しつつ下流側に新たに造成された新西山ダム、そして大分県にある日本一美しいと言われ、ダムの女王とも称される白水ダム(白水溜池堰堤・国指定重要文化財)などです。


 今回は、こうした歴史的なダムの調査研究のほか、嘉瀬川ダム景観デザイン検討委員会における景観に配慮したダムづくりの提案などを踏まえ、ダムと景観デザインの関係についてさまざまな角度から掘り下げたお話を伺いたいと思います。

(インタビュー・編集・文:中野、写真:廣池)

ダムと景観を考えるきっかけ

中野: 九州には土木遺産というのがたくさんあります。例えば落水の表情が美しい白水堰堤とか、そういうものの研究とかはどうですか、そこからダムに興味が湧いてこられたのでしょうか?

樋口: 実は土木遺産のダムについては、付けです。順番からして最初のダムとの関わりは、当時WEC(財団法人ダム水源地環境整備センター)にいらした播田さんから声をかけていただき、平成15年の4月に嘉瀬川ダムの景観検討委員会に参加させてもらったことです。土木における景観とはどんな仕事をすれば良いのか、篠原修先生や中村良夫先生が書かれた本を読んだりして手探りしていたところでした。

中野: ダムを見るようになったのは、嘉瀬川ダムがきっかけなんですね。

樋口: そうです。白水堰堤も最初は、写真を見て知りました。うちの大学では、一年に一回、秋口に二年生の学生80人を位連れて研修旅行に行きます。く恒例行事があります。僕が担当した平成15年度の研修旅行の行程に、白水堰堤を入れました。その頃は、白水堰堤自体も今みたいに有名じゃなくて、一般の人が見学できるようには整備されていませんでした。だから歩いて30分も離れた小学校のグランドにバスを停め、そこからぞろぞろと細い農道を歩いて白水ダムまで行きました。それこそ遠足です。(笑)行ってみると、たまたまですが程良い感じで水が落ちていて、お天気も最高で、その景色には僕だけじゃなく学生たちのほとんどすべて、ポカンと口を開けて見入ってしまいました。これはホントにすごいものがあるなと思いました。


白水堰堤(撮影:Dam master)
九州は石積み構造物の宝庫

中野: 白水の他には?河内ダムもすごいですがご覧になりましたか。

樋口: ええ、九州にあるダムで有名なところはみな見て歩きました。どれもこれもすごいですね。

中野: 豊後の石工さんの技術、石積みの技術ですね。

樋口: よくご存知ですね。その通りです。九州以外にも石積みのダムはけっこうありますが、とくに九州は石工さんの伝統がありますから多いのです。

中野: ダムにも伝統技術が活かされたと言うことでしょうか。

樋口: そうだと思います。明治から大正、昭和の初期にかけて、日本のダムは、技術的な蓄積ができていない時期にあっても、すごくチャレンジングなことをやり、その結果としてすばらしいものがいくつもできました。ダム自体がもっている風格とか味わい、周辺の自然風景との調和などの面で見たときに、これはホントに頭が下がるなという、美しいものがたくさんあります。

中野: 嘉瀬川ダムはどのように感じておられましたか?

樋口: 嘉瀬川ダムの建設予定地は福岡から佐賀に抜ける道路沿いにあり、僕は何度も通って知っていました。近くには古湯温泉という有名な温泉場があります。川沿いにはひなびた山村集落がいくつかあり、石積みの橋があり、川の中にある巨石が地元の人の信仰の対象だったり、すごく素敵な場所でした。近くには北山ダムがあって、そのダム湖のまわりが佐賀や福岡県民の憩いの場として水準の高い整備がなされ、たくさんの市民が利用しているという状況も知っていました。


嘉瀬川ダム
 
中野: 地元の人もたくさん通る街道沿いの風景の中にできるダムだったのですね。嘉瀬川ダムの景観検討委員会ではどういうお仕事をされたのでしょうか。

樋口: 入れていただいたのは、嘉瀬川ダム堤体景観検討委員会という組織で、ダム本体と直近の施設の景観デザインをどうするかが対象です。北山ダムと嘉瀬川ダムとは、将来ツインダム湖になるし、たくさんの人が側を通るだろうということは間違いないですから、これはちゃんとしないといけないと思いました。

 当時苫田ダムでは、本体だけでなくダム湖にかかる橋、付け替え道路、トンネルなどを、トータルにデザインするやり方を採用していたので、嘉瀬川ダムでもそうしたいと思い、苫田ダム方式のように全体を見させて欲しいということを申し上げました。でも、工事事務所のお考えやそれまでの地元の自治体さんとの経緯もあって、全体はできませんということになり、ダム本体および直近の景観検討に的を絞った委員会組織になったわけです。

中野: 実際には今造っている最中ですが、設計されたその景観は?

樋口: 今行ってご覧になったらダム本体はほとんど出来上がっています。数々の制約がある中で5年以上やりとりをして合意を作っていったもののうち、半分程度はなんとか形にすることができたかなと思っています。

スペインで、自然の中に佇むダムを見た


スペインのダム

中野: ダムにおける景観デザインのヒントはどうやってつかまれたのですか?

樋口: WECが2004年にスペインにダムの視察団を派遣された時、そのメンバーに入れていただきました。その視察で気付いたことが一つのきっかけです。その頃、嘉瀬川ダムで、最初のタタキ台のデザインができてきました。ダムの下流側にゲートの操作室関係が全部出ている形で、それをシンメトリーに整然とならべてダム全体を美しく見せましょうというのが基本的な考え方でした。僕も最初はわからないから、そういうものかと思ってやっていました。ところがスペインの視察団に参加した時、見学予定じゃなかった無名のダムに間違えて立ち寄ることになったのです。いまだにそのダムの名前はわからないのですが、写真はあります。堤体がちょっと赤みがかっていますが、これは現地の石がそういう色をしているため、骨材に使うと日本のように白っぽいコンクリートにならなくて、色がついているのです。

中野: たまたま立ち寄ったスペインの名もないダムで何かひらめいたのですか?
樋口: このダムを見たときに、すごくいいなぁと思ったのです。肩に力を入れたデザインではなく、「ダムです、私は」という顔をしたダムが良いのではないか、そしてそれが周りの風景に馴染んでいたら、それが一番良いのだろう、と思ったのです。

 その他、いろいろ見せていただいたのですが、かなりデザインに凝ったものもあって、日本だったらここまでは出来ないよなというものもありました。でも、そんなことまでして「俺はここにいるぞ」という見せ方をするのが本当によいことなのか、「ごめんね、僕はここに居たんだよ」というような見せ方もあって良いのではないかと感じました。そういうものが実は土木の思想にすごく近いと思ったのです。つまり取り繕うことはせず実直に下で支える、下支えするというダムの存在のしかたです。

中野: なるほど、ダムは社会の底力という訳ですね。

樋口: ひっそりと静かだけど存在している。ただ、そこで黙って仕事をしている、というように。白水ダムがきれいだということも、実はその辺にあるというような事がなんとなく自分の中で湧いてきたのです。それで帰ってきてからこういう方向を提案していって、嘉瀬川ダムのデザインを大転換させました。もちろん、僕一人の力ではないのですが。

嘉瀬川ダムで、贅肉をとる
中野: その姿は、嘉瀬川ダムでどのように表現されたのでしょうか?

樋口: 機能に忠実な姿を狙いました。まず、当初下流側に配置されていた各種操作室をエレベータシャフトだけ残して他は全部上流側へ移しました。その方が合理的だからです。洪水吐ゲート群は上流側にあり、これを開閉するために巻き上げ機から延びたケーブルで吊っているのですが、下流側にこれらの操作室を配置するということは、一旦滑車をかませてケーブルを横に引き、下流側に機械を据えて巻くということになります。しかし機能面から考えると、ゲートの真上に機械があって上方に巻き取るのが、アクシデントが起きたりする可能性が一番低いのです。昔のダムはだいたいそうなっていた。


 下流側のエレベーターシャフトもいじりました。最初のタタキ台で出てきたものは、ダム天端から上の建屋部分が異常に高かった。ダム全体の大きさと比較してアンバランスに長い塔だったのです。どうしてこんなにで出っ張らなければいけないのかと疑問に思って、コンサルの人にこの高さのものがなぜ必要かと聞いたら、そこにはエレベーター機械室が入っているからだと説明された。このエレベーターは100メートル近い昇降距離があるのでそれなりに大きな機械室は必要ですが、それにしてもこんなに高い空間がいるわけがない。それで自分でエレベーター会社に聞いて調べてみたら、やはりそんなに大きな空間は必要なく、巻き上げ機械のレイアウトを変更すればよいということがわかった。それで塔の高さを低くすることができました。

 一番苦労したのはダム上流側に設ける選択取水塔という施設です。これは嘉瀬川ダムの付属設備の中で最も大きなもので、一辺が10mを超えるほぼ正方形の筒がダムの下端からそびえ立つのですが、タタキ台ではこの上部にある操作室がやはり大きすぎました。様々なやり取りを経て、内部に入るシリンダー型の取水設備の形状に合わせて無駄のない八角形断面の形状とすること、さらにその高さは内部の機械や操作に必要な空間の広さを確保できるミニマムの高さにすることなどを決めていきました。

 他にも実際の使い勝手、安全な運用ということだけでみたらそこまで大きくなくても良いというものがいくつもありました。それらについても設計図から贅肉をそぎ落とす、つまり合理的な形状に修正していく作業をおこないました。こうした作業を積み重ねることで、別にシンメトリーにこだわったり形態上のデザインに操作を加えなくても、いつの間にか「私はダムです」といういい顔になっいったように思います。

同じ色合いのコンクリートで一体感を出す


工事中の嘉瀬川ダム(撮影:中村順治)

中野: スペインでご覧になったダムのように色を揃える訳ですね。
有名なヨーロッパ的なデザインのダムより、名もない小さなダムが参考になった例ですね。

樋口: 今、嘉瀬川ダムでそれを作っている最中ですが、堤体と見た目がまったく同じ色合い、風合い、素材感のコンクリートですべての操作室が揃ったダムの構造ができるのです。これは実際に完成してみないとわかりませんが、建物は建築的に造り、ダムは土木技術で造りました、というイメージではなくなり、統一的なものになったと思います。そうしたことは全部スペインの名もないダムで学んだことです。名前はあるのですが、一生懸命検索したのですが出てきませんでした。
 ツアーの最後に偉い先生がこれはお土産だといって、スペインのダム学会か何かで出されたすばらしい写真集をくださったのがですが、これにはアルメンドラダムのような著名なダムは全部載っていますが、僕が言っている小さなダムは載っていませんでした。

中野: 未だにわからないままですか?

樋口: スペインの視察ツアーの中で、たまたまあの無名のダムにめぐり合い、それをベースに嘉瀬川ダムに取り組むことができました。しかし残念なことに、途中から国の経済環境が悪くなってきたのに合わせてダムの工事費も圧縮されることになり、おまけに原石山からも予定通りに良い石が出なくなったりして、現場事務所もともかく早く安く作らないといけないという方向にシフトしてしまったのです。その結果、景観検討委員会は詳細に多数の未解決次項を残したまま閉会されることになったのです。


 
悔しさの残る、委員会の終わり方

中野: 何か、強制終了みたいな感じですか?

樋口: そうですね。そこから先は公式に介入する手段を失いました。だけど、やはり播田さんに道を造っていただいてそれを引き受けた責任もあるので、委員会が終了した段階で僕が手元にもっていたチェックリストで出来たことと出来なかったことを調べて、未完成の項目については、あらためて九大からの提案という形でダム工事事務所にメールや手紙を差し上げました。その結果もちろん全部ではないのですが、取り入れられる部分は取り入れていただけるようになりました。

 一番心配したのは操作室建屋の仕上げです。最近のダムは、本体はもちろんコンクリートでがっちり作りますが、操作室はなぜか建築の目線で作ってしまうのです。最近のダムはみんなそのようです。結果として重量感のあるダムの上にすごく軽薄な感じの箱が乗ってしまう。そうならないように詳細図まで描いて事務所の担当者の方に見せました。これについては事務所側も理解して下さったようです。

ダムに地域の風景、文化を込める



中野: ダムを景観からみて設計するのは、実際どういうふうにするのですか?

樋口: 先程例に挙げた苫田ダムも含めていくつかテスト的な取り組みがなされてきました。そんなこともあって、最初は非常にぎこちなかったのですが、今はどういう工夫ができるのかが見えてきたのではないかと思っています。昔のものから学べるものは何かというのもある程度は整理出来てきてきましたね。

 これから新しいダムを造るぞとなれば、ダムのエンジニアの方に混じって我々のような立場のものが、職能を発揮させていただける場があると思うし、それなりに胸を張れるものを造れる自信もついてきたのですが、その一方で新規のダム計画の数は減っていますから、なかなかチャレンジをする機会が与えられない状況になっています。
ダムの美しさの原点は、突き詰めた機能美にある

中野: 新規のダム計画はもうないと言われますが、ダムと景観を考えていけば、まだ切り口があるということでは。

樋口: 嘉瀬川ダムに関わっている時、ダムはシビルエンジニアリングではなくミリタリーエンジニアリング的なアプローチの方がむしろふさわしい対象かもしれない、と考えたこともありました。つまり要塞です。コンクリートバンカーというやつです。要塞というのは、単一機能に特化した非日常的な構造物ですが、とても合理的でシンプルな姿をしています。ダムにはそういうものと相通じる突き詰めた機能美のようなものがあってよいと思います。

中野: そのシンプルさは非常にわかりやすいと思います。


樋口: それに気付かせてもらったのがスペインのあの無名のダムです。ここに三次元の曲面を入れてとか、シンメトリーにしてとか、お金を使って建物の壁に石をはってとか、そういう方向性とは違うところを狙おうとしたのが、僕なりのダムのチューニングの方向性ですね。

ギリギリまでチューニングすると美しい

中野: 究極のダムの美しさというのは、どういうことでしょうか

樋口: 最大限に機能を果たすために合理的な必要最小限で造りましたという、ギリギリのところでのチューニングをまずやってみることが必要ではないかと思います。昔はたぶん予算がなかったしコンクリートがすごい貴重品だったので、おのずとギリギリのチューニングになったのです。これは僕自身の考えであって、景観の他の先生方の中には別の考えを持つ方もいらっしゃるでしょう。僕の方がむしろ少数派だと思います。

 船の甲板が舳先から下がって真ん中あたりでまた上がる、これを波形甲板というのですが、日本の軍艦が初めてこの形を新しく導入しました。戦艦大和もそうなっています。これは、舳先が起こした波が来ないところに高い舷側を造ってもしょうがないという考えですが、それで結果的に美しくなった。日本の軍艦がそういう技術を取り入れるまで、世界の軍艦は甲板が真っ直ぐだった。

 今の導流壁も同じです。水が当たらないところをきちんとはかっていったら線形は曲線になるはずですが、実際は折れ線グラフみたいでしょう。これはその方が構造計算が簡単だからです。技術が進歩した最先端のチューニングを施すことで現れてくる機能的な形にすれば、ダムは自ずから美しくなるように思います。


僕が良いダムと思うもの

中野: さっきのお話に出てきた「山の中でひっそり佇んでいるダムの姿」というような言葉は、ダムマニアの方の話を思い出してしまいました。そういう意味でダムというのは、威張って存在しているのではなく、自然に溶け込んでひっそりと頑張っているのが良いダムなんだと思いました。

樋口: 良いダムというのは、たぶんそういうものが多いのではないでしょうか。今は、一般の人に見てもらうために噴水を出したり、ライトアップしたり、いろいろと行政の方も考えてはいるのでしょうが、そういうアピールの仕方もあるかも知れませんが、僕から見るとなんかピントがずれているように感じます。。


土木に触れていない学生を教えるには

中野: 先生は、土木に関わる学生を教えておられると思いますが、これまでにお話しを伺ったどの先生もおっしゃっていますが、小学校、中学、高校と土木のことなど何も学ばず、いきなり大学生になって、土木工学科に入って来るので、今の学生にはインフラを作るということがどういうことかを理解する頭も、発想も、自覚もないと、日本の教育内容を嘆いておられます。そういう状況で、先生は、土木に関わる学生についてどう教えておられるのでしょうか?

樋口: 今、大学にいる連中は、これから社会に出て、一大変化の過渡期を担うジェネレーションです。つまり役所に入っても、会社に入っても、先輩がやってきたやり方をただ単純にマネすれば良いという時代はとうに終わっています。自分たちの力で手探りでやっていかないといけない。好むと好まざるにかかわらず、自らが創出していかなければならない世代だと思います。

中野: なるほど、今の学生たちは、そういう過渡期だからちょっとしんどいのかもしれませんね。

樋口: だけど、しんどいジェネレーションというのは、坂本龍馬じゃないけど、ほんとうに野心のある人にとっては、男でも女でも良いのですが、あんな時代に産まれたかったという時代が今来ているというわけです。

中野: だから龍馬伝とか、坂の上の雲とかに再び人気が集まるのでしょうか?

樋口: 社会的な閉塞感から、ああいうものに関心の目が向いているのだと思います。政治については、日本は人材不足でああいう人はいまだに出てきませんが、技術者には優秀な人たちがいっぱいいます。ただ、マスメディア、とくに新聞とかテレビとかを見ているとモチベーションが下がる一方なんです。土木というのは、やせても枯れても基盤産業で、世の中の風潮に付和雷同せず、ブレずにちゃんとやっていけば良いという話をするのですが、なかなかそうはいかない。自分たちがワクワクするようなジェネレーションに産まれあわせたんだということをどうやって知って貰うかがポイントです。もちろん、ダムの話だけしていたらワクワクなんかできない。自然再生だとか、市民とのコラボレーションだとか、地域の目で地域をつくっていくとか、いろいろな新しいことに目を向けてあげなければいけない。土木遺産の文化財的な活用や地域観光への利活用なんかもありますね。それに、地球温暖化だって土木が担わなければいけないことがある。すごく面白いことがいっぱいあるじゃないですか。


 
好きなダムは・・

中野: 話は変わりますが、先生は日本のダムではどういうのがお好きなのでしょうか?

樋口: 最近見た中で美しいと思ったのは小樽の奥沢水源地です。もやがかかる湖面があって、その中に三角帽子の取水塔が立っている。何かヨーロッパの森の中にまぎれこんでしまったような感じがします。ダム湖のまわりにはじめは土留めのために植えたエゾ松なんかが見事に生育して素敵な森になっています。人工なのですが時を経て自然と見まごう奥行きのある風景になっています。

奥沢水源地(撮影:安河内孝)

豊稔池ダム(撮影:安河内孝)
 堤体を見てびっくりしたのは、四国の豊稔池ダムです。アーチを寝かせて組んで水圧を受けている。どんなに凝って造ってもこんなすばらしいものはできないだろうなと思いました。まさに構造の美しさです。

玉石の謎


青下第1ダム(撮影:安河内孝)

中野: その他にはありませんか?全国のダムを見て回って、お好きなダムとか、特徴のあるダムとか。

樋口: あとは、仙台の上水の水源になっている青下ダム。堤体に漬け物石くらいの玉石を詰め込んでいるのです。なぜ玉石なのか、似たものを探したけれど他にない形です。

 使っているのは地場で出てくる石です。農家の方達が塀をそれで造っていたりします。設計者の名前はわかっているのですが、なぜ玉石を積むという方法を選んだのかがわかりません。うち大学の修士の学生が一年つぶして、仙台に泊まり込んで調べましたが、結局わかりませんでした。もし理由が見つかったら絶対に論文が一本書けたのですが。(笑)

中野: すごく特徴的なのですね?
樋口: 凸凹があるから水の勢いを和らげる機能もある。つるっとした面より水勢を殺せる。でも、ある程度時間が経つと石が外れそうです。だから、どのくらいまで石を埋めるかを決めるのが難しかったと思います。表面すれすれまでモルタルを塗ったら玉石が見えなくなっちゃいます。大きく石を出すとそこに水が当たりますから、ポロっといっちゃいそうですが、そうならない。今でも越流斜面はちゃんとしています。切石ならありますが、あれだけの規模の玉石は見たことがない。ほんとうにきれいです。これもオタク的な話ですみません。(笑)

オタク的なダムの見方

中野: 実はこのインタビューは、ダムマニアさんから始まっているのです。

樋口: 初めは僕も、全然ダムオタクではなかったのですが、ダムの仕事を始めたら自然にそうなりますね。構造的、技術的なすばらしさとか、工法的な新しさとか、その辺ももちろんあるのでしょうが、僕の場合パッと大づかみでそのダムを見たときにきれいかどうか、姿に味わいがあるかどうかを気にします。

中野: 早く次のダムに取り掛かれると良いですね。
 本日は、貴重なお話しをありがとうございました。


(参考)樋口明彦先生 プロフィール

九州大学大学院工学研究院准教授

学 歴
  昭和58年3月 東京大学工学部土木工学科卒業
  昭和63年9月 コーネル大学都市及び地域計画大学院修士課程入学
  平成2年6月 同上終了(都市及び地域計画学修士)
  平成7年9月 ハーバード大学デザイン大学院Dr. of Designプログラム入学
  平成10年6月 同上博士 (Doctor of Design)

職 歴
  昭和58年4月 五洋建設株式会社入社
  平成7年7月 同上退職
  平成9年7月 トンプソンデザイングループ入社
  平成11年3月 同上退職
  平成11年4月 九州大学大学院工学研究院助教授採用
  平成19年4月 准教授に配置換え
  現在に至る

2009年度 土木学会デザイン賞最優秀賞 受賞
受賞対象作品「遠賀川 直方の水辺」

[関連ダム]  嘉瀬川ダム  青下第1ダム
(平成23年3月作成)
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